うっとうしい
ステラが沿岸についた。荷を降ろしたり逆に積んだりしている乗組員の姿が視界の端に映っている。
荷物の詰め替えは整備班の仕事だ。重い機材を日ごろから扱っている彼らなら適任なんだろう。船の整備も仕事のうちなのかもしれない。
だが空にとって整備班の働きなどどうでもよかった。今はいつもの制服から着替えた、どうみても年下の少女の方がよっぽど大事だった。
「イリーナ大丈夫か?」
「ん」
「ハンカチは持ったか?」
「ん……んー」
「お母さんみたいって、心配なんだから仕方ないだろ」
無表情なりに顔をしかめるイリーナに、空はどうしろってんだとばかりに眉間にしわを作った。
「ん」
「うっとうしいって、割と傷つくなそれ」
思春期を迎えた娘をもつ父親の気持ちが分かったような気がした。これを毎日続けられたら、肩身がせまくなるのも納得だ。
「ていうか本当に一人で大丈夫なのか? 俺もついて行った方がいいんじゃないのか?」
「ん。んー、ん」
「問題ない。空が来るまでは一人で通ってたし、一人でも大丈夫、か。確かにそうだったんだろうけどさ」
空の提案は、イリーナに首を振って拒否された。
基本的に出撃がないときはパイロット二名がステラに残らなければいけない。シュテルンがいつ来るか分からないからだ。迎撃しようにも人がいませんじゃ話にならない。
今ステラに乗っているパイロットはシトラ、エン、イリーナ、そして空の四名だ。空が来るまでは三人しかパイロットはいなかった。つまりイリーナは一人で調整とやらに向かっていたことになる。
今まで一人で十分だったのに、余計な人がついていっても迷惑だろう。
「でも、他の誰も降りないって珍しくないか?」
空がステラに乗るまでは空きがなかったから一人ずつ降りていた。それは分かる。
しかし空が来てからは遊べる人数が増えたこともあって、いつも必ず二人は降りていた。
イリーナは仕方ないにしても、もう一人ぐらいは降りてもいいと思う。
「ん」
イリーナが振り返って町の方に腕を伸ばす。
更地としか思えない光景が広がっている。地平線なんてこの世界に来て初めて見た。
「確かに何かあるようには見えない……っていうか俺は何が違うのか分からんけどな」
「ん」
「そうだった、じゃねぇよ」
無表情のまま口元に手を当てるイリーナに、空は苦笑してしまった。
「何かあったら連絡してくれ。あと、あわよくば今回は寝ないよう注意してくれ」
空は手をヒラヒラと振った。今回は彼もお留守番だ。
イリーナのあとを勝手について行くことも考えた。だけど更地にしか思えない状況で、どうやって身を隠せばいい。あるのはコンクリートが敷き詰められている道路だけだ。障害物のしの字も見えない。
「んー、ん」
「できるかどうか分からないじゃなくてだな。俺をうっとうしいって思うならせめて少しぐらい安心させてくれ」
「んー」
「しょうがないなぁって元はと言えばされてるお前が何されてるか分かってないから心配してんだぞ?」
「んっ」
「あからさまにしまったって顔するなよ」
空はイリーナとの温度差に苦笑した。
空は本気で彼女が心配だ。だけど彼女は何にも思っていないようだった。むしろピクニック前の子供のように上機嫌だ。
心配するのは確かに大切なことだと思う。空の胸にはまだぬぐい切れていない不安がある。
「んじゃ、いってらっしゃい」
だけど、今ぐらいは笑顔で送り出すべきではないだろうか。何もない可能性だってまだあるのだから。
「ん」
「おう。早く帰ってこいよ。お母さんは心配性だからな」
手を振って町中へと出向いて行ったイリーナに、空は笑顔で手を振った。
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次回は今日午後12時更新予定です。




