コネはない
食堂でシトラと空、そしてイリーナは他愛ない世間話をしていた。
たまたま食堂の前で鉢合わせたからだ。偶然に過ぎなかったが、せっかく顔を合わせたからと一緒に食事をとった。シトラと空はもうとっくに食べ終わっており、食後のお茶を飲んでいた。
「……ん」
イリーナが手を合わせて箸を置いた。
「どうした?」
「ん」
「もういらないのか?」
「ん」
談笑していた空とシトラは顔を見合わせた。
イリーナは手を合わせたが、食器にはほとんど手つかずの食べ物が乗っている。
今日は出撃があった。だから腹が減っていないということはないはずだ。
「体調不良? しばらく出撃は控える?」
「んーん」
イリーナは首を横に振った。
空は彼女の額に手を当ててみるが、別段熱いとは思わなかった。人肌の温度だ。熱が出ているというわけではない。
「無理しないでよ――ってああ。もしかして調整の時期?」
「ん」
思い出したようにシトラが聞くと、イリーナは頷いた。
「調整? 何の話だ?」
調整なんて聞いてもピンとこないのは空一人だけのようだ。
「さあ? アタシが詳しく知るわけないわ。本人に直接聞けばいいじゃない」
「俺はイリーナに聞いてんだ」
「あっそ」
シトラが頬を膨らませて不機嫌を露わにする。
後でご機嫌を取らないといけない。まあそれはまた今度ということで。
とりあえず不貞腐れているシトラを無視して、空はイリーナに意識を集中させる。
「ん」
「調整ってのはよく分からない」
「ん」
「いつも寝ているから。ってそれじゃ全然ダメじゃねぇか」
残念ながら、この場で唯一調整とやらを知っているであろう当ては外れた。
シトラとイリーナはきょとんとしている。質問しているのに答えが得られなかったことがそんなに不思議なのだろうか。
「眠れるぐらい安心できるってことじゃないの?」
「いやいや、それでも何かされているんなら気にならないか?」
空なら気にする。他人に体を許すなんて絶対にありえない。しかも意識がない間にやられているなんて、何かされていないかと心配で気が狂いそうだ。
「んーん」
「信頼しているから大丈夫って、それはあまりにも無防備じゃないか?」
「ん?」
「そう?」
「あのなー」
揃って首を傾げるイリーナとシトラに、空は頭を抱えた。
彼女たちは自分の立場を分かっていない。いくら何でも警戒心が薄すぎる。
彼女たちに何かあれば、それだけで日本は終わりだと言うのに。
「お前らは全員モデルも真っ青なほどの美少女なんだぞ。もっと自分に関心を持てよ」
「あら珍しい。明日は槍でも降るのかしら?」
シトラがいいものを見つけたとばかりにニヤリと笑う。
「ん」
「そうね。槍の代わりにシュテルン呼んだりしそうね」
「しねぇよ。そんなコネはない」
「そうだといいけど」
ニヤニヤと笑いながら、シトラは空の横に移動して体まで預けてくる。
空は胸の高鳴りを無視して睨み付けることしかできない。
「……シトラお前。楽しんでるだろ」
「さあ? 何のことかしら?」
ジトリと睨んでやると、シトラは露骨に目を背けた。
「言い逃れはできねぇぞ。なんだって俺にはイリーナがいるんだからな」
「……ん?」
「露骨に目を逸らすなよ」
「どうやらイリーナはアタシの味方みたいね」
イリーナは聞いてませんとばかりに明後日に視線を動かしており、シトラが勝ち誇ったように笑った。
やはり権力の差はかなり大きいようだ。
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