最後まで
天気は快晴。風はなく、波も落ち着いている。これで唸るエンジン音さえなければ、絶好の日向ぼっこ日和だろう。
空たちパイロット四名と健太郎は揃って甲板に立っていた。
「お世話になったんだな」
緑の機体に乗り込み、コクピットのハッチだけを上げているスイに、空は小さく手を振る。
スイはこれから帰る。空たちが甲板にいるのは、世話になった彼を見送るためだ。
イリーナは相変わらず無表情で佇んでいるし、健太郎は意味もなく微笑んでいる。エンは何かを言おうとさっきから口を何度も開閉しているし、シトラに至っては顔をしかめて早く帰れと言わんばかりに手をヒラヒラさせている。
全員が全員自由にもほどがある。特にシトラ、仲間の旅立ちにその態度はどうなんだ。
「――また!」
「ん?」
エンが一歩前に出て、少し目を丸くしたスイは彼女の言葉を待つ。
シトラが舌打ちをした。一秒でも早く帰ってほしいようだ。もう少し我慢しろよ。
「また、来てもええんやで」
その場にいた全員がエンの言葉に驚いた。
彼女は家庭の事情により、家族を嫌悪している。それはスイに対しても同じで、再会したときは顔を合わせただけで倒れたほどだ。
そのエンが、スイとの再会を望んだ。
事情をある程度知っているからこそ、驚かないわけがなかった。
「……うん。うんもちろんなんだな」
甲板に立っている全員の何倍も驚いて目を丸くしていたスイは、やがて微笑みながら何度も頷く。傍目でも分かる嬉しそうな顔だ。
「絶対にまた顔を見に来るんだな。それまで生きているんだな」
「当たり前だろ。俺が守るよ」
エンの隣に立って、空は彼女の肩をそっと抱いた。
エンの驚きが手に伝わってきたが、せっかく格好つけているのだ。もう少しだけ我慢してくれ。
空はスイが飛び立ってから土下座しようと心に決めた。
「そうだな。大黒柱がしっかりしないといけないからな」
「あん?」
「次来るときには甥っ子か姪っ子の顔が見れると嬉しいんだな」
「!? 何を――」
空の言葉が終わる前に、スイはコクピットの内部をいじってハッチを閉めた。これでは空の声は届かない
『それじゃあな。次会うときは平和な世であることを願っているんだな』
「当たり前じゃない。シュテルンを全部倒して、アタシたちは勝利するの」
シトラが呟き、エンとイリーナが同時に頷いた。
空と健太郎は彼女たちの会話について行けない。二人はシナスタジアシステムを使って会話をしている。共感覚のない空と健太郎は、外部機器がないとスイの声が聞けないのだ。
『その威勢が最後まで続くことを望むんだな。最強』
「アンタこそ簡単にくたばるんじゃないわよ。最良」
エンジンが唸りを上げる。
どうやら出発するようだ。エンと空は一歩下がった。
キィンと音がして、スイを乗せた機体は一瞬で飛び立っていった。すぐに肉眼で見えなくなる。今まで気にしなかったが、轟龍もこれぐらい速いのだろう。はたから見るとまた違った印象を受ける。
「最後聞こえなかったんだが、何の話をしていたんだ?」
「別に。気にするようなことじゃないわ」
甲板での用事を済ませた空たちは艦内へ戻ろうと足を動かす。
シトラは空の質問を冷たくあしらって答えてくれなかった。髪から覗いている耳は心なしか赤い。
「シトラと兄さんはリーダーとしてお互いに鼓舞していったんよ」
「鼓舞?」
「結構恥ずかしいやり取りやったで。なあイリーナ」
「ん」
「――っ。うっさいわよ!」
先を歩いていたシトラが振り返って怒鳴る。その顔は真っ赤だ。恥ずかしいやり取りというのは本当らしい。
空は初めて、共感覚を持っていないことを後悔した。だからといって薬を使おうとは思わないが。
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次回は今日午後6時更新予定です。




