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裏切り者

 艦橋勤務乗組員御用達仮眠室。

 長ったらしく言ったが、要は空が初めて目を覚ましたときに運ばれていた部屋だ。相変わらず簡素なベッドが並んでいる。唯一の丸窓は青くなっていた。


「司令官。お呼びかな?」


 スイと健太郎と空は、ある意味健太郎の自室になっている仮眠室に来ていた。

 健太郎に呼び出されたのだ。スイはまだ分かるが、空はどうして自分まで呼び出されたのか理解できないでいた。


「ああ、中間報告ってわけじゃないが色々と聞きたくてね」

「ボクの仕事について、だな?」


 そうだった。スイはこの船まで遊びに来ていたわけじゃない。兄妹喧嘩があったからすっかり忘れていた。

 健太郎が空の存在を公表しなかった。それどころか新型機を勝手に提供し、これまた何の報告もしなかった。

 怒ったエイロネイア他支部の人たち、エイロネイアの幹部たちに当たるんだろう、が信頼できる指揮官としてスイを派遣したんだ。


「その通り。どうだった? スイから見て空は轟龍のパイロットに相応しいと言えるかい?」

「……ずるい質問だな。空君に助けられていると分かっているはずだな」

「さあ? 何のことだか」


 健太郎は肩をすくめてとぼけた。

 つい先日ハンバーガー大食い大会が行われたところだ。空を引き入れておきたい健太郎としては最高のタイミングで、スイにとっては否定しにくい最低のタイミングだ。

 健太郎なら空がこじらせていた関係を修正するところまで計算していたとしても不思議ではない。


「空君は轟龍のパイロットに相応しいと思うんだな。共感覚を持っていないにもかかわらずアメリカにいるボクの部下たちよりも優れた技能を持っているのは確実なんだな」

「なら他国への説明は任せてもいいかな?」

「構わないんだな。元々ボクはそのために日本に来たんだからな」


 スイが呆れたように肩をすくめた。

 健太郎は空のことを報告するつもりがないらしい。元々報告しなかったのもあるし、存在が他の支部に認知されてもその重い腰を上げようとはしない。

 それだけ仕事が立て込んでいるのか、はたまたただ面倒なだけなのか。

 どちらかは分からなかったが、空は心の中でスイに手を合わせた。


「それで、もう一つ。これは俺の懸念なんだけど」

「裏切り者、とやらかな?」

「ああそうだ」


 重く頷く健太郎に、空の胸は激しく跳ねる。

 大事な話は健太郎の怠け癖だけではなかった。この船に敵が潜んでいるのかもしれない。いつ寝首をかかれるかも分からないような状況が続いているのだ。


「残念だけど力になれそうにないかな。ボクが知る限り不審な動きはまったくなかったんだな」

「そうか。エイロネイア最良の指揮官でも気付けなかったとなると、この船ではないのかもしれないな」


 首を左右に振るスイに、健太郎はあっさりと敵は別の場所にいると決定した。

 そんなに簡単でいいのだろうかとも思うが、健太郎なら大丈夫だろう。

 彼みたいな用心深い人間が、他人に説明する前に自分で調べていないわけがない。調べ、少なくともこの船に裏切り者がいないと判断したからこそ、スイに話をしたのかもしれない。

 もし仮にスイが裏切り者だったとしても、健太郎は何か策を用意しているはずだ。スイみたいな強い奴が敵だなんて考えたくもないが。


「ステラ以外となると、ボクはさすがに分からないんだな」

「分かった。俺がもう一度探りを入れておこう」


 スイも恐らく自分も疑われていると理解している。だが、彼は至って平然で気にした様子もない。まるで気付いていないかのようだ。聡明なスイに限ってそんなことはあるはずがないのに。


「なぁ」

「ん?」


 蚊帳の外で二人の会話を聞いていた空がタイミングを見て口を開く。健太郎が反応してくれた。


「スイっていつまでこの船にいるんだ?」

「……何かな? ボクは邪魔なのかな?」


 スイがじろりと睨んできた。


「いや、そういうわけじゃなくてだな。スイはアメリカがメインなんだろ?」

「そうだな」


 スイが睨んだまま頷く。怖い。


「なら一応任務も終わったんだし帰った方がよくないか? もし今アメリカに母艦が出てきたらさすがに厳しいだろ」


 ステラの正式パイロットは空、シトラ、エン、そしてイリーナの四名だ。

 エイロネイアアメリカ支部シュテルン迎撃部隊総指揮官。

 スイの役職からも分かる通り、彼の受け持ちはアメリカだ。ステラの滞在している日本ではない。


「優秀な部下がいるから大丈夫って言いたいところだけど、確かに長居はよくないかもな。そろそろ薬も切れそうだしな」

「分かった。なら一週間後に帰れるよう手配しよう。薬がなくなると戦えなくなるからな」


 来たときは突然だったのに、帰るときは手続きがあるのか。

 ……もしかして、スイが来ることを健太郎だけは知っていたってことか?


「一週間後か。出撃があると足りなくなるかもしれないんだな」

「我慢してくれ」

「根性論ほど下らないものってないよな」


 やれやれと首を横に振るスイ。


「まったくだ。よくそれで司令官が務まるな健太郎」

「うるさいぞ」


 空も便乗して健太郎に冷たい視線を送る。

 親友は鬱陶しそうに顔をしかめた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後6時更新予定です。

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