表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/133

どうせ暇

 白と銀色に彩られた清潔感のある部屋。

 部屋の中央にはステンレスのテーブルが置かれ、壁際にはステンレスの箱のようなものがいくつか置かれている。中には食べ物が入っているのだろう。いわゆる冷蔵庫というやつだ。


「んじゃ、やりますか」


 空は腕をまくって、一人気合いを入れた。目の前には何個ものボウルに入れられたひき肉がある。

 空母ステラの食堂奥にある調理室。ほとんどの乗組員が一度入るか入らないかという場所。

 空もあまり入ったことはない。小腹が空いたときか飲み物が欲しいときに散策するぐらいだ。食堂担当も常に張り付いているわけではない。深夜に欲しくなったら自分で探すしかない。


「ん?」

「んあっ? ああ、イリーナか」


 ボウルに入っていたひき肉をこねていると空と同じく小腹を空かした中学生ぐらいの少女が入ってきた。

 今更ではあるが、いくら何でもイリーナは幼すぎる。間違いなくステラで最年少だ。


「ん?」

「何してるかって? 見て分からないか?」


 食材に唾液でも入ったらたいへんだ。空はあまり話をしたくないのだが、イリーナはそんな都合なんて知ったことではない。


「んー、ん?」

「死体隠蔽のために肉こねてるわけじゃないって。船の上っていう密閉空間なのに殺人者いたら恐ろしいだろ」

「んーん」

「別にって、ああそうかイリーナなら大丈夫なのか」


 予想外の答えに空は苦笑して否定する。そして嫌な例えを使ってみたが彼女は首を横に振った。

 空の感性では恐ろしいと思うが、イリーナはどうやら違うようだ。初対面で人を背負い投げるような彼女なら、暴漢も殺人鬼も大して脅威にはならないのかもしれない。


「ん?」

「ハンバーグ作ろうと思ってさ」


 イリーナが首を傾げたので、空は自分の目的を簡潔に語る。

 もうこねなくてもいいだろう。一つ目のボウルを油まみれの手で横にずらし、次のミンチをこね始める。


「ん」

「海の上でもハンバーガー食べたくなるときがあるだろ? だから作ってるんだよ」


 どうしてと聞かれたので、空は同意を求めつつまたまた簡潔に答える。

 食堂で出されるメニューはどれも絶品だ。違うメニューを食べるたびに頬が落ちそうなぐらい美味である。

 美味ではあるが、物足りなく思うときがある。

 空は高校生だ。世界を渡った今でこそ通っていないが、味覚まで変わったわけではない。たまには脂の塊みたいな安っぽいものも食べたくなる。

 頼めば作ってくれるのだろう。だけど今回は空が自分で作らなければならなかった。


「んっ」


 イリーナがたたっと駆け出して流し台で手を洗う。


「ん? なんだ手伝ってくれるのか?」


 急に手を洗いたくなる理由なんてそれぐらいしか知らない。

 空はボウルから突然の行動を起こしたイリーナに視線を釘付けにする。


「ん」

「そうか悪いなってそういえばイリーナって料理したことあるのか?」

「ん?」


 イリーナは首を傾げた。可愛い。


「なさそうだな。分かった形の形成だけやっててくれ」

「ん」


 肉をこねたり形を整えるぐらいなら料理未経験者でもできるはずだ。

 ちなみに空はある程度料理ができる。というよりせざるをえなかった。両親が共働きで、しかも賞味期限が近いから冷蔵庫のものを適当に使ってくれという命令がよくくだされていたからだ。

 ハンバーグはよく作っていた。何でもミンチにして混ぜればいいのだから食材の消費で見れば楽だし。


「二人とも何しているわけ?」


 空が的確であろう指示を出すとほぼ同時に、調理室に新たな来訪者が現れた。

 金髪碧眼の美少女。自称最強のシトラだ。


「んっ!」


 初めて空に頼られたイリーナは上機嫌だ。油でべとべとの手を自慢げに見せびらかしている。とても可愛い。


「ハンバーガー? 船の上で?」

「久しぶりに食べたくないか?」

「いいわね。何個作るつもり?」


 シトラも空と同年代だ。言い換えれば味の好みもそれほど離れていない。

 シトラまでお金持ちの家だったという話は聞いていないから、多分空と似たようなものを食べて育ってきたはずだ。育ったならハンバーガーが大好きなはずだ。

 ハンバーガーが嫌いな人類は存在しないのである。


「そうだな。どうせなら船員全員に作ってやりたいと思ってるよ」

「はぁっ? 二人だけで作ってたらいつまで経っても終わらないわよ」


 そう、終わらない。そんなことは十二分に分かっている。何故なら空はまだ全員の顔を覚えたわけではないし、艦橋に行く途中だけでも多くの人とすれ違うのだから。

 だから誰もいない食堂を借りて一人作業していたのだ。最悪食堂に来た職員に泣いて頼むつもりだったが。


「だったら手伝ってくれないか? どうせ暇だろ?」

「言い方ってもんがあるんじゃない? まあアタシも食べたいから手伝うけど」


 文句を言いながら腕をまくるシトラ。

 言葉こそとげがあるが面倒見はいい。短い付き合いでも空は彼女の性格を理解していた。


「サンキュ。んじゃあイリーナは形を整えといてくれ。シトラは火を見といてくれ。俺がそれ以外の全部を準備しとくから」

「ん」

「了解。空隊長」


 シトラがからかい気味に声を弾ませてニヤリと笑った。

 持ち上げられた空も悪い気はしなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は今日午後6時更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ