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悪い影響

『絶対負けへんからな』

『それはこっちのセリフなんだな』


 シミュレーション機に入ったエンとスイの声を、空はモニター越しに聞いていた。画面には毎度おなじみの何もない空間にエンの蒼龍とスイの緑色の機体が映っている。


 外からの観戦用に用意されている大きなモニターを使うのは初めてだ。今まで戦うばかりだったが、こうやって相手の動きが見れるのなら確かに訓練の一環になるのかもしれない。常に二機を映すカメラワークに、空は感心した。


「なんだか楽しそうね」

「ん」


 空がモニタリングしながらの練習方法について思案していると、シミュレーション室に入ってきたシトラとイリーナが呆れたような顔をしていた。


 どうやら自然とニヤけていたようだ。空は無意識で緩んでいた口元を急いで引き締める。


「よっ二人とも。どうしたんだ?」

「寝れなくてね。ちょうどイリーナとも会ったし」

「ん」


 イリーナが頷く。


「あぁなるほど。シトラを倒そうってわけか」

「ん」


 イリーナがもう一度頷いた。


 戦意があるのはいいことだ。自他共に認める最強のシトラとスイ曰く最高の素質を持っているイリーナ。きっと二人ならお互いを高め合えるだろう。


「簡単に負けるつもりはないわよ。そっちは?」

「エンとスイの兄妹対決」

「どうやったらそうなるわけ?」


 シトラがジト目で空を睨んでくる。


「俺が先導したからな」

「ああ納得」

「ん」


 理由を聞いて、シトラだけではなくイリーナまで深く頷いた。どうやら納得はしてくれたらしい。


 不本意だ。


「正直言って、二人はどっちが勝つと思う?」

「エンが負けるはずがないじゃない」

「ん」

「それは身内びいき無しか?」


 空の言葉に、歴戦の二人はすぐに表情を厳しいものに変えた。


「んーん」

「身内びいきしなければ、勝つのはやっぱりスイか」

「でしょうね。指揮官と一戦闘員じゃ単純に経験の差が違うわ。単騎の性能だけで言えば確かにエンが強いけど、対策を練る力はスイにある。勝つとしたら、策を練れる方でしょうね」


 イリーナが首を横に振り、空の確認にシトラが腕を組みながら答える。


 彼女たちがいい例だ。


 イリーナは最強の共感覚にミサイルを振り切るほどの高速飛行可能な黄龍がある。単純な性能だけでいえば彼女を超える機体とパイロットは存在しない。


 だが、イリーナは最強ではない。


 シトラや空は経験で性能の差を埋める。攻撃が当たらないのであれば、当たるように考えればいいだけの話だ。


 あらゆる状況でも指揮しなければならなかったスイとただ指示に従ってきただけのエンではどうしても経験の差が出てくる。


 それは空だって知っていた。知っていたからこそ、二人の意見を聞いておきたかった。


「そっか。やっぱり分が悪いよな」

「何? もしかして、エンが負けたらアタシの部隊からいなくなるとか言わないわよね?」

「……」

「冗談でしょ。あーもう、何勝手なことしてるのよ」


 図星をつかれ空は黙る。


 シトラは彼の様子から冗談半分の言葉が冗談ではないとすぐに悟った。


「どいて。アタシたちにも戦いを見せなさい」

「ん」

「悪い。勝手な判断して」


 モニターの前から追い出すようにして体を割り込ませてくる二人に、空は頭を下げた。


 独断で博打をうってしまった。せめて二人に相談ぐらいすればよかったのだ。


「終わったことなんだからしょうがないじゃない。それに、空の判断が最善だったんでしょ?」

「ああ、多分」

「なら胸を張りなさい。アタシたちの決断は常に正解か分からない。だからこそ正しくしないといけないの」

「ん」


 穴が開くぐらいモニターを凝視しながら、シトラは特に気にした様子もなく言った。イリーナもしょうがないとばかりに頷いている。


 空は申し訳ない気持ちに蓋をして、モニターに意識を集中させた。


『こんのっ!』

『甘いんだな』


 モニターの中で、蒼龍の展開するミサイルの弾幕をスイは必要最低限の迎撃で逃げ道を作っていた。


『どうしたんだな? 最強の攻撃機』

『まだまだこれからや!』


 スイの挑発に乗る形でエンは更なるミサイルを放つが、今度は緑の機体が急加速してことごとくミサイルを振り切っていく。


 相性が悪い。空は二度のやり取りを見てそう思わずにはいられなかった。


 経験の差、技量の差、そして機体の性能差。


 どれをとってもエンはスイに劣っている。特に一瞬だけとはいえミサイルを振り切る加速はいただけない。たった一つだが、スイは絶対的な防御を手に入れているのだ。


 しかも彼は一枚の切り札に頼ることはしない。他に手段があればそちらを優先して切っている。恐らく対策を取られないようにするためだろう。


 はたから見るとスイの機体も無茶苦茶な性能だ。信号機に並ぶと言っても過言ではない。


 どうすれば倒せるのか。空だけは理解している。


『なら、空の真似をするしかあらへんか』


 蒼龍はミサイルを放ち続けている。相変わらず迎撃されるが、焦った様子はなく落ち着いているようだ。


 空の知らないパターンの攻撃だ。ミサイルの密度が意図的に操作されているような気がする。


 スイの機体はミサイルの密度が薄い箇所を縫うように進んでいく。


『生意気だな』


 空がエンの意図に気付くと同時に、スイが舌打ち交じりの声を漏らす。


 エンはスイの機体を誘導している。

 ぎこちなさを感じるのは彼女があまり頭を使った戦闘をしないからだろう。蒼龍の強みは多重ミサイルによる空間爆撃。誘導なんて本来は必要ない。


『何とでも言い。勝つのはウチや』

『なら乗ってやるんだな』


 スイはエンの意図に気付いていながらも、誘導に従うと宣言した。


 いや、従わざるを得ないのか。意図的に穴を作っているエンは、逆に穴を抜けさせまいとミサイルの数を増やしている。避けながら穴を抜けるのは少しばかり骨が折れそうだ。


 やがて、スイとエンは睨み合うようにして向かい合った。


『どうするつもりなのかな?』

『初めて空に負けたときと同じやり方や』

『エンたちの日和った理由を教えてくれるなんて親切なんだな』


 スイの皮肉に、エンは答えなかった。


「空、悪い影響与えるの止めてくれない?」

「んなこと言われても困るんだが」


 観戦していたシトラがジト目で空を睨む。睨まれた空は目を逸らした。

 二人の機体が見えている三人は、エンの狙いがすぐに理解できた。

 どう見ても、直撃コースだ。


『いっけぇ!』


 エンの声と一緒に、二機は激突して大爆発を起こした。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は来週月曜日午前8時頃更新予定です。

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