表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/133

決まりだな

 空とエンは食堂に戻ってきた。


 スイの様子からして恐らくまだ食堂で休んでいるはずだ。すぐ動ける可能性は低いし、何より自室に戻られていると困る。エンを連れて男性の個人部屋が集まっているエリアに入るのには抵抗があるからだ。


 半分ぐらいは希望的観測、もう半分は空の願望に近かった。


 祈りながら食堂に向かうとちょうど自室に戻ろうと立ち上がっているスイを見つけた。慌てて空は彼を座らせて、スイと向かい合って座ったエンの隣に腰かけた。のだが――


「お通夜か!」


 空はたまらずツッコミを入れた。


 彼は部外者の自分が話を主導するのもどうかと考えて、話を傍観するつもりでいた。だがしかし、空の目論見は崩された。


 聞く立場であるスイは静かにしているし、エンも勇気が出ないのか黙り込んでいる。


 空気はどんどん重たくなっていくし、ただ座っているだけなのにだんだんと二人の肩は落ちていっているし、このままでは埒が明かないと思った。


 要は我慢の限界だった。


「空君。どうしてエンの隣に座っているのかな? エンと一緒の家庭に入ってくれる気になってくれたってことかな?」

「えっそうなん!?」


 エンが先ほどまでの雰囲気を吹き飛ばして空に機体の眼差しを送る。その目はキラキラしていた。


「ちげーよ。分かってて言うんじゃねぇ」

「「チッ」」

「お前ら絶対仲いいだろ……」


 二人揃って舌打ちをする兄妹に空はため息を吐いた。


 息ピッタリじゃないか。これなら俺は必要なかったんじゃないか。


 仕返しに提案してやろうかとも思ったが、エンが本気で困るだろうから辞めておくことにした。空は大人なのだ。


「話があるんだろエン」

「……兄さん」

「何かな?」


 大人な空は再度話を促すと、決心を固めた面持ちのエンが口を開く。スイは反対に気負った様子一つない。


 場慣れの差が早くも出ている。空は内心で冷や汗を流した。


「ウチは家に帰るつもりなんてさらさらあらへん。ウチにとってこのステラこそが家なんや」


 言った。まっすぐ、正直に。


「そんなこと許されるわけないんだな」


 ばっさり。


 エンの覚悟のこもった言葉は、擬音が聞こえてきそうなぐらいの即答で切り捨てられた。


「許されようが許されまいが関係あらへん。ウチは蒼龍に乗る最強のパイロットなんやから」


 しかしエンも負けてはいない。


 一度決めたらとことんと、どれだけ否定されようともまっすぐとスイを睨みつける。


 空は知らなかったが、彼女が強気になれるのは一人ではないからだ。今まで家族と対峙するときとは違う頼もしい仲間の存在が、エンの背中を後押ししている。


「……空君がエン側にいるってことは、つまり認めているってことなのかな?」


 エンにほぼ一方的に睨まれていたスイは視線を空へと移す。


 彼の瞳は冷めていて、轟々と気合いが燃え盛っているエンとは対照的だった。


「最強ってのは俺たち四人の誰もが自称しているから頷きにくいけど、少なくとも俺はエンを家族だと思ってるよ」

「それは婿になるという意味かな?」

「違うって。分かってるだろ?」


 空はうんざりした顔で返した。いい加減しつこい。


「面白くないんだな。空君はユーモアの一つも分からないんだな」

「うっせぇよ。お前がしつこいんだろ」


 口を尖らせてふてくされるスイに、空は思いをありったけ詰め込んだ冷え冷えの視線をプレゼントする。


 スイはまだ冗談を言える。つまりまだ茶化すだけの余裕が残っているということだ。


 エンは真剣な表情で空と冗談を言い合う兄を見つめ続けている。しかしスイにとっては真剣になる案件ではないようだ。


 相手をする価値もない。空はスイの態度に、そう感じずにはいられなかった。妹を心配しているという話は何だったのか。


「それにエンの主張は事実であったとしても認めるわけにはいかないんだな」


 スイがようやくエンに視線を戻した。


「空君がそっちにいるってことはボクが家に帰るように言う理由も分かっているはずなんだな」

「えっ空知ってたん?」

「知ってたし言っただろ。美少女の妹がいたら放っておけないって」

「あれ冗談ちゃうかったんか……」


 なぜエンが額を抑えて項垂れているのか、空には理解できなかった。


「今の言葉に、ボクを説得する要素はないんだな。エンがパイロットである以上、常に死の可能性が付き纏うんだな。兄としてそんな状況を看過できるわけがないんだな」

「だったらどうすれば」

「決まってるんだな。エイロネイアを辞めて蒼龍に金輪際乗らないと誓うしかないんだな」


 結局結論は変わらない。


 スイは話し合いは通用しない。誰にどれだけ何を言われようと、彼は決して意見を変えないのだから。


「そんなんできるわけないやん!」


 当然エンは反発する。彼女が苦手な相手と話をしに来たのは、船を降りろと言う兄を説得するためだ。分からず屋のスイを見ているだけで震えあがるほどの眼光で射抜く。


 スイはもう口を開くつもりもないようだ。無言で腕を組み、意見を曲げるつもりはないと目で訴えている。


 兄妹の意見は平行線をたどっている。どちらかが折れない限り、二人の睨み合いは続くだろう。


「――ならさ」


 無言で睨み合う二人に向けて、空はこの場に顔を出した最大の目的を果たそうと口を開く。


「戦ってみればいいじゃん」

「「えっ?」」


 思ってもみなかった提案に、兄妹は揃って間抜けな顔をして空に視線を移す。


「そんな驚くことか? エンもスイも、戦えば相手を説得する材料が増えるじゃねぇか。なら白黒つけるのが一番早いだろ」


 突拍子のない提案の思っていたより理にかなった根拠に、スイとエンはもう一度視線を合わせる。


 今度は険呑な雰囲気はない。空には二人がただ困惑しているように見えた。


「それに対戦から繋がる輪だってある。俺と健太郎もその輪で繋がったし、エンも実感あるだろ?」

「確かに空と仲ようなったんはシミュレーションで落とされてからやけども」


 空がエンたちに初めての敗北を突き付けてやった。


 それまではどこか壁を作っていたエンも、空と戦ったことで一気に距離が縮まった。


「なら今度は兄妹仲良く対戦すればいい。言葉じゃ伝わらないものが理解できるかもしれないぜ?」

「ボクは構わないんだな。どうせ勝者は決まっているんだからな」

「……ええで。やってやろうやないか。ウチの実力思い知らせてやるわ」


 スイとエンが再び睨み合う。


 静けさと燃えるような激しさの違いこそあれ、二人の目には穏やかではない闘志が渦巻いていた。


「んじゃ決まりだな」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は来週月曜日午前8時頃更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ