いけ好かない奴
「ほんっと、二人は似た者同士だよ」
スイに説教された。
空の戦い方はむちゃくちゃで、そんな戦い方を続けていれば長生きできないという内容を延々と説教された。
初陣でシトラにも似たような説教を貰った。あのときは人を殺したという体験のせいであまり怒られることもなかったが、それでも空の記憶にはしっかりと残っている。
自室へ戻る途中の空は、なんだか落ち込んできた気持ちを空気と一緒に吐き出した。
「あれ?」
視界の端、十字路の左側に金髪の人影が見えた気がした。
直進していた空は一歩下がって十字路に戻る。やはり胸元に手を当てて何かを考えている金髪の少女がいた。
「どうしたんだよこんなところで」
「空。ううん。何でもないわ」
声をかけられて初めて空の存在に気付いたようだ。胸元に当てていた手を放し、首元から服の下に持っていたものを隠す。チラリと見えたがペンダント、だろうか。
近付いて気付いたが声をかけるまで目を閉じていた。空に気付かないのも無理はないのかもしれない。
「シトラって健太郎の命令なら何でも聞くのか?」
何だか触れてはならないような気がして、空はまったく関係のない話題を口にした。
「何よ藪から棒に」
「いやさ、スイにあっさり指揮権渡したじゃん?」
「嫌々ね」
シトラが思い出したかのように顔をしかめる。
「んで、俺を拉致ったときも健太郎の命令だったんだろ?」
「人聞きが悪いわね。ちゃんと任意同行だったじゃない」
「気絶させて運ぶのは強制連行だろ」
「やれやれ。これだから空は」
「なんか無性に腹立つけど無視するぞ」
呆れましたと言わんばかりにため息を吐いて首を横に振るシトラを見ると、額に青筋が走ってしまう。
しかし今はもっと聞きたいことがあった。だから落ち着け俺。踏み込みの位置とか殴る角度とか計算するんじゃない。きっと負けるから。
「それで? 結局何が言いたいわけ?」
空が無言で歯を食いしばっていると、シトラが本題へ戻してくれた。元はと言えばお前が悪いんだろうがとかそんなことを言ってはいけない。
「何が言いたいとかってわけじゃねぇけどよ」
「最低ね」
「急になんで!?」
歯切れ悪く言うと予想外の罵倒が返ってきた。
意味が分からなかった空は思わず大声を出してしまう。すぐに口元に手を当てて誤魔化しの咳払いをした。
「空が何を妄想しているのか手に取るように分かるわこの変態。イリーナほどではないけれど、アタシだって共感覚は持っているのよ」
シトラは勘が鋭い。戦場ではもちろんのこと、日常においてもその才能はいかんなく発揮される。
具体的に言うと空の誤魔化しは通用していないようでジト目で睨んでいる。
「何の話だよ!」
「とぼけないで。司令官になら身体でも捧げるとか考えてるんでしょ変態空」
「なななっ、んなわけねぇだろ!」
予想の斜め上どころか大気圏突破しているシトラの嫌疑に、空は顔を真っ赤にして否定する。
どうしてそんな話になった。アレか。どんな命令でも聞くのかってたずねたからか。
「えっ? ホントに?」
「本当だよ! 賭けたっていいぜ」
「……」
自分がたいへんな勘違いをしているとようやく気付いたシトラが黙り込んだ。その顔は彼女の愛機よりも真っ赤だ。
「シトラ、もしかして……」
「言わないで。何も」
「分かった。触れないでおく。それで俺が本当に聞きたかったことなんだけどさ」
「うん。何?」
二人の間に簡単な協定ができた。
正直言ってからかってやりたい気持ちもある。だけど空はその欲望を理性で否定する。
冗談などではなく本気で恥ずかしがっているシトラ。その目はうっすらと潤んでいる気がする。冗談とはいえ、話を広げてしまえばそれはシトラを追い詰めるだけだろう。とても冗談で済むとは思えなかった。
「ぶっちゃけ、シトラはスイをどう評価してるんだ?」
空が気になっていたのはその一点だ。
シトラは自分に絶対的な自信を抱いている。日頃の言動からでもそれは窺えるし、実力も背負っている重責も彼女が必要不可欠な人材であると裏付けている。簡単に言えばシトラの自信を助長させているのだ。
だから彼女が健太郎の命令とはいえ、簡単に自分の役割を渡すことがあるなんて思わなかった。
一度空が作戦を考えたとき、明確な根拠を提示するまで決して耳を傾けようとしなかったのに。
「いけ好かない奴」
「パイロットとしてだよ」
はんっと鼻を鳴らして腕を組みながら即答するシトラ。
予想していた答えに苦笑して、空は条件を付け足した。
冗談とかではなく、シトラはスイを嫌っているらしい。二人はかなりの似た者同士だから同族嫌悪というやつだろうか。
「純粋な実力なら、それこそ一対一での戦いならアタシより弱いわ。空よりは強いみたいだけど」
「っるせぇな。次は負けねぇよ」
「だといいんだけど。スイの最大の強さは指揮能力よ。彼は部下がたくさんいるから、必然的に部下を使う能力を養われたらしいの」
指揮能力が高い。だから指揮権を素直に譲ったのか。
シトラが認めているということは、スイの能力も相当のものだろう。
そういえばエンに叱責を飛ばしていたっけ。多数の部下を従える立場なら、分かりませんなんて言われれば怒っても当然なのかもしれない。
「アメリカって言ってたな。世界最大の軍事国家。お前らと比べても遜色ない実力者なのも納得だ」
エイロネイアが国ごとに支部を作っていることすら知らなかったが、スイはその中でも一番の大国のトップにいるらしい。
それならチートと称された三人に次ぐ実力者なのも納得できる。
「それでもアタシが最強に優秀なのは変わらないけどね」
シトラが何でもないかのように胸をはった。
「はははっ、でも指揮能力。判断力だけならスイの方が上か」
「そうね。アタシは優秀な軍略家ではあるけれど、きっとスイの足元にも及ばない。チェスなら絶対に勝てないでしょうね」
簡単に負けを認めるなんて有り得ない。
空は一瞬だけ絶句したがすぐに思い直した。
シトラは何でもかんでもできるという自信家なわけではない。あくまでも最強だと自称しているのは空戦においてだ。
「意外だな。シトラが他人の強さを簡単に認めるなんて」
「事実は――」
「事実と認める。それが優秀な軍略家だ。だろ?」
シトラの言葉を先読みして、空は不敵に笑ってみせた。
彼女は信条ともいえる考え。頭越しに否定するのではない柔軟な考え方。
あながち彼女をただの自信家だとも笑っていられない、人並み外れた実力者の一端だ。
「分かってきたじゃない。これでもうちょっと可愛げがあればいい部下なんだけど」
「冗談だろ。俺は部下じゃなくてライバルなんだから」
空の言葉に、シトラは不敵な笑みで返した。
パイロットたちの間に上下関係はない。少なくともステラに乗っている面々の中では。
あるのは相手を認め、肩を並べ、相手を目標に研鑽して実力を高め合う関係だけだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は来週月曜日午前8時頃更新予定です。




