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数えきれへん

 高度一万メートル。選ばれた人間しかいられない空間。


 轟龍を含めた五機の戦闘機は、編隊を組んで飛んでいた。


『えーすごく気に入らないんだけど今日はスイも一緒に戦ってくれるわ』


 先頭を行く赤い機体、紅龍のパイロットから通信が入った。声音からしてシトラの嫌そうな顔が容易に想像がつく。


 そういえば初めての戦いのときも歓迎はされなかった。空はなんだか懐かしい気持ちになった。


『よろしくなんだな。最強部隊のミナサン』

「すごい棒読みだな」


 紅龍の左後ろに控えている緑の機体のパイロット、スイが今更な挨拶をする。


 空は思わずツッコミを入れた。


『指揮系統はどうするのかな?』

『もちろんアタシがって言いたいところだけど、司令官からはスイの指示に従うようにと命令されているのよね』

『当然なんだな』


 空が口を挟めない話題をさらりと決定するシトラとスイ。


 どうでもいいが、出撃してから指揮系統を決めるとかそんな大雑把でいいのだろうか。


「シトラが譲るなんて珍しいな。明日は槍でも降るのか?」

『分からへんよ。もしかしたら未知の金属が落ちるかも』

「それはこれからだろ」

『ん』


 空の言葉に吐息交じりの声でイリーナが同意を示してくれた。


 シュテルンの円盤に使用されている金属は、エイロネイアを含めあらゆる組織にとって解析の済んでいない。言うならば未知の金属だ。少なくともこの星には存在していないらしい。


『無駄話は終わりなんだな。エン、敵の数を』


 スイの尖った声が聞こえてきたから空は反射的にレーダーに目を落とす。しかし、レーダーには何の反応もなかった。


 何を不思議なことを、とは言わない。


 轟龍のレーダーはそれほど高性能というわけではない。視認可能距離より少し広い程度だ。


 信号機の中でもトップの索敵距離を誇る蒼龍の半分程度しかない。どうやらスイの機体も蒼龍と同じぐらいの索敵範囲があるようだ。だから彼はエンにしか聞かなかったのだろう。


『ええっと、数えきれへんって言ったら怒る?』

『七十二機なんだな。それぐらい数えてもらわないと困るんだな』

『……失礼しました』


 エンが感情を押し殺したような声で謝罪する。


「それで、作戦はあるのかリーダー」

『ボクとエンで先制攻撃。その後ぺたんことイリーナ様で群れから外れる雑魚を掃討するんだな』


 険悪になっていく雰囲気を和らげるために空が、臨時の上司に指示を仰ぐ。


 スイはスラスラと答える。多分ある程度は策を考えていたのだろう。いつも通りといえばそれまでだが、確かにこの部隊では確実な戦術だ。


『誰がぺたんこよ』

『イエスかノーのみで喋るんだな』

『分かったわよ男女』

『ん』


 不本意な扱いをされたぺたんこことシトラが不機嫌に返事した。彼女が口を尖らせて拗ねているのは見るまでもない。


 おっと、何だか先頭を飛ぶ機体から殺気が飛んできた。


 空は身震いした。イリーナ以外は空の感情を読むことはできないはずだ。


「俺はどうすればいいんだ?」


 一人だけ指示が渡されなかった空は、改めてスイに意見を求める。


 決してシトラの気を逸らすためではない。誰が震えているものか。これは武者震いだ。


『空君は邪魔しなければそれでいいんだな』


 初陣と同じ命令をスイからも受けて、空は苦笑した。不確定要素を排除したいその気持ちは痛いほどによく分かる。空もスイたちと同じ立場なら似たような命令を下すだろう。


『アタシたちが集めた敵にいつも通り飛び込んで』

『勝手な判断はよすんだな』

『あら。邪魔しなければそれでいいんでしょ? 使える駒を腐らせる必要はないわ』


 どうするものかと思案していると、シトラが助け舟を出してくれた。すぐに臨時指揮官が身勝手な部下を叱咤するが、シトラはどこ吹く風だ。まるで反省していない。それどころか反論した。


「了解。いつも通りね」

『期待してるわよ』

『ウチもや』

『ん』


 どうせ待っていても引っ込んでろとしか言われないのだ。ならばシトラの命令に従った方が空としては居心地がいい。


 シトラとエンとイリーナがいつも通りの期待を背負わせてくる。ここ最近は空がいつもいいとこどりをしているからこのやり取り自体何度もされているのだが、それでも美少女三人に期待されるのはむずがゆい。


『邪魔をしないのなら、任せてもいいんだな』


 観念したのか、スイがシトラの命令に従う許可を出してくれた。


「了解。んじゃ、早く終わらせようぜ」

『了解』

『ん』


 空がスロットルレバーを押し込み、轟龍を急加速させて編隊から一足先に飛び出す。すぐに黄龍と蒼龍も機体を加速させた。


『どうして空君が仕切ってるのかな?』


 取り残されたスイがトゲトゲしく呟く。通信に乗って空まで届いたが、多分スイ本人は通信が入ったままだとは気付いていない。


『気に入らないけどアタシも指揮権を奪われたわ。だから気にしない方がいいわよ』

『余計に腹が立つんだな』

『帰ったら覚えてなさいホント』


 シトラのフォローにスイはさらに不機嫌になった。釣られてシトラも額に青筋が走らんばかりに苛立ちの声を零す。


 しかし、性格の相性は最悪の二人はほとんど同時に加速した。意見は合わないが息はピッタリのようだ。


 余談ではあるが、空がシュテルンの群れに飛び込むとスイも若干引き気味に驚いていた。どうやら空の戦い方はかなり珍しいようだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は来週月曜日午前8時頃更新予定です。

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