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今度こそ落とさせてもらうぞ

 青いだけで何もない空間。


「いつ見てもつまんねぇなここは」


 エイロネイアの中、コクピット型に展開されたモニターを見渡して、空は見慣れた光景に呆れたような呟きを漏らす。


 足元から胸の高さまである見るからに外付けと分かる緑色のモニターにはレーダーや今の武装の状態、機体が地面に対してどういう向きになっているかなどが表示されている。今のところレーダーに反応はなく各武装は消耗無し。期待も地面に対してほとんど平行に飛んでいる。


 左右にはスイッチのたくさんついたレバーが一本ずつ取り付けられていた。右側が操縦桿、左側がスロットルレバーだ。空は今右手の操縦桿を軽く握り、スロットルレバーを飛行できる最低限まで引き絞っている。


 エイロネイアは作り込みが売りのゲームだ。例えばボス戦であるこの空間に入る前は文明の発達したビル群の隙間を縫うようにしてドッグファイトを繰り広げたりもした。雑魚敵だけではなく、障害物にも気を配らなければならないのがステージの肝になっていた、はずだ。


 しかし目の前に広がるのはただ青いだけのだだっ広い空間。障害物がなければ敵の姿もない。

 否。敵はいないのではない。これから出現ポップするのだ。


 シャラララーンという軽くそれでいて荘厳な効果音が響いた。


 赤、青、黄色のポリゴンが集まっていき、ドット絵どころか精巧な3Dモデルだからポリゴンが使われるのはただの演出だ、三機の戦闘機が姿を現した。


 ポリゴンと同じ、赤、青、黄色の戦闘機。カラーリング以外はほとんど外観は変わらず、流線型のフォルムに大きな二つの翼。二つのエンジンの排気口付近にも一対の翼を備え、機体とほとんど鉛直に立つ尾翼も二つ備わっていた。

 武装の姿は見えない。しかし数百回以上戦闘を繰り返してきた空は敵が丸腰ではないことを知っていた。各機体に特徴付けるようにしてカスタムが施されており、武装も機体内部に収納されているのだ。


「さあ来い信号機。今度こそ落としてやる」


 空が幾十万円を捧げた相手。運営の強欲の化身を目の前にして、空が獰猛な笑みを浮かべて闘気を漲らせる。


 同時に黄色の機体が閃光となり、青い機体の全身から常識外な数のミサイルが解き放たれた。


 空は舌打ちを漏らして右手の操縦桿を操作する。見ている方が肝を冷やされるほど紙一重にミサイルによる空間絨毯爆撃の隙間を縫っていく。


 わずかにでも操作をミスすればすぐモニターにゲームオーバーの文字が浮かんでしまう。しかし空に焦りはない。淡々と複雑に操縦桿を操作して、ミサイルを切り抜ける。


 青い機体がどこにミサイルを撃つのか、どう退路を塞ぐのか、どのような癖がありどんな相手が苦手なのか。ほとんどすべてのパターンが頭に入っていた。ゆえに嵐のごとき攻撃力を誇る青い機体も閃光のような速さで視認から外れた黄色の機体も大した脅威ではなかった。


 ――問題は。


 ミサイルを避け切った空を嫌な予感が襲った。


 咄嗟に機体を急旋回させる。死角である機体下部から赤い影が通り抜けていった。


「お前だ赤いの……!」


 黄色より遅く、青い嵐よりも控えめの武装なのにもっとも強く恐ろしい赤い機体に、空は腹の底から今までの恨みを込めて唸る。


 パターンが一番多く命中率もダントツ。赤い機体を主体に他の色もパターンを変えるから、間違いなく一番厄介なのは奴だ。

 青と黄色を落とすことよりも赤単体を相手取る方が難しい気がする。もちろん、落とさなければいけないのだが。


「チッ」


 嫌な思い出が蘇ってきて胃がキリキリ痛んで顔をしかめていると、気が付けば赤い機体に後ろを取られていた。


 空中戦の最中で後ろを取られるなんて死活問題だ。赤い機体を引きはがそうとして操縦桿を左右に倒し、蛇行飛行するもぴったりとくっついてくる。

 さすがの力量だ。空の数十万円など取るに足らないというほどの技術差を突き付けてくる。


 だが、相手の技量の方が優っているなど既に分かり切っていたことだ。空は顔をしかめたまま冷静に思案を働かせる。


 どうすれば相手を引きはがせるか。残念ながら有効な攻略方法は見つかっていない。


「どうせゲームだ。試してみるか」


 空は動画で見た機動を真似するべく操縦桿を全力で引いていく。同時に左のスロットルレバーを引いてエンジンの出力をほとんどゼロにして滑空する。


 空の操作により機体の先端が上がり、エンジンを切ったことと機体を傾けた空気抵抗により急減速した。

 反応が遅れた赤は止まれず、目の前の障害物を恐るべき反応で避けて通り抜けていく。


 予想通り。だからこそ空はすぐに操縦桿を倒して機体を元に戻す。


「変態機動……性能が高くないといけないとか聞いてたけど、出来てよかった」


 ぶっつけ本番で成功した博打に安堵して、けれども鋭く意識を保ちなおして操縦桿についている引き金を引く。


 翼下部に取り付けられている黒鉄のガトリングガンが轟音と共に毎秒百発の雨が降った。


 数発当たっただけで赤が射線から逃れようと動き始めた。攻撃されたことによりパターンが切り替わったらしい。呆れた反応速度だ。


 しかし、赤い機体は一つ勘違いしている。それは、相手がすべての回避パターンを頭に入れているということだ。


 空は回避しようとする赤い機体の動きを読み、銃弾を逃げようとする機体の軌道上に置いていく。

 パターンを読まれ、さらにはパターンそのものの変化まで操作されて、赤い機体はみるみる内にダメージを積み重ねていく。


 やがて、機体に塗装とは違う赤が混じったかと思うと、少なくない衝撃をまき散らして赤い機体は爆散した。


 空の機体が揺れ、反射的に姿勢制御に意識を奪われながら他二機の様子を伺う。


 青い機体、黄色の機体も同様に姿勢制御に気を取られており、とても空に反撃を加える余裕はなさそうだ。


「よし、これで肝は潰した」


 空は吊り上がる口元を無視して、残りのチート級の雑魚どもに視線を送る。


 リーダーが落とされて、プログラムであるはずの青と黄色がわずかに動揺してるように見えた。


「今度こそ落とさせてもらうぞ」


 黄色い閃光と青い嵐が落ちるまで、それほど時間はかからなかった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


次回は明日午前7時頃更新予定です。

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