ボクにそっちのケはないな
家族、と一言で言っても色々ある。
夫婦仲が良くて子供も幸せな家庭。祖父母が健在でたくさん孫を可愛がってくれる家庭。皆幸せそうに笑っている、そんな家庭もたくさんある。
ウチも、そんな家族に憧れていた。
別に両親が離婚したわけやない。祖父母だってまだ生きとるし、笑顔だってまったくなかったわけやない。
それでもウチは家族が嫌いや。
血が繋がっているウチの家は、逆に言えば血の繋がりしか存在しなかったから。
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コンクリートがむき出しとなり、中央に置かれた趣味の悪い椅子が部屋に一つしかない照明に照らされていた。椅子の両手足には結束バンドが付いており、座ったら最後逃げられないようになっている。
「ウェヒヒヒ。終わーりましたよー」
下卑た笑い声をあげて、椅子の傍らに置かれたステンレスの作業台に向かっていた男が振り返った。
丸メガネに手入れのされていない無精髭。ボサボサに伸びた髪は作業の邪魔にならないよう大雑把にまとめられ、ヨレヨレの白衣はも何日も洗ってないのか所々黄ばんでいる。
嫌悪という言葉が服を着ていればまさしくこの男のようになるのだろう。
「相変わらず気持ちの悪い笑い方だな」
「ウェヒ。褒ーめられてーもなんにも出ませんよー」
「割とストレートにけなしたつもりなんだけどな」
やれやれと首を振って、椅子の拘束を外していく気色の悪い男にため息を吐く。嬉々として拘束を外している男は、呆れられていることに気付いていない。
「でーきまーしたよー」
「ありがとうな」
丸メガネの男が一歩下がって拘束椅子から距離を取ったので、体を起こして部屋の隅にポツリと置かれたかごへと歩み寄る。そしておもむろに着ていた白の病衣を脱ぎ捨て、かごの中に放り込まれていた自分の服を手に取った。
「ずーいぶんとおいしそーになーりましたねー」
振り返らなくても分かる。口元を歪め、直視すれば思わず鳥肌が立ってしまうぐらいの舌なめずりをしているであろうことは、容易に想像がついた。
「ボクにそっちのケはないな」
「わーたしにだってあーりませんよー」
今度はくくくっと喉を鳴らす。一挙手一投足がすべて不快な印象だ。逆にすごいと感嘆する。
「どうだかな教授。色々と聞いてるんだがな?」
「ウェヒヒヒ。なーんのことだーか」
ジロリと一瞥すると、教授と呼ばれた丸メガネの男はさらに口元を歪めて笑っていた。
否定も肯定もしていない。だけど彼の表情は紛れもなく物語っていた。
「まあいいかな。ボクの妹に手を出しさえしなければな」
「こわーいですねー。興味が出ーてきちゃいまーす」
「ボクと教授は仕事の付き合いだな。だけど教授じゃないと困るということはないんだな」
その言葉に乗せられたおよそ常識的ではない殺気に、教授の顔が一瞬だけ強張った。
「……じょーだんでーすよー」
「それじゃ教授。また来るんだな」
教授が再び笑みを浮かべると、もう彼の姿を視界に収めるつもりもないと振り返る。
着替えはとっくに終わっていた。こんな趣味の悪い部屋に居座る理由はない。
「お待ーちしてまーすよー。スイさーん」
教授のお世辞を背中で受けながら、スイと呼ばれた人間はわざと音を立てて部屋の扉を閉めた。
お前と馴れ合うつもりはないと告げるかのように。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は来週月曜日午前8時頃更新予定です。




