第7話 宣戦布告
覚悟を決めた。
正面から言う。それだけだ。
毒草はなかった。包丁は料理に使わされた。魔法陣は踏まれた。薬草調合はリーナに弱みを握られた。落とし穴はまたがれた。弱点を探したら自分が弱点だった。
もういい。策はいらない。私はヴァルディア。千年以上生きた魔王だ。正面から宣戦布告して、堂々と戦う。今の力では勝てなくても、それでいい。魔王としての矜持だけは示す。
朝食の席で、切り出した。
「アレン。私はお前に——」
「おかわりあるぞ」
アレンが粥の鍋を指した。
「……聞け」
「熱いうちに食え」
私は粥を食べた。
昼に再度試みた。
アレンが縁側に座って道具の手入れをしていた。私は正面に立った。
「アレン。私はお前に——」
「ディア!」
フィルが飛び込んできた。
「虫とろう! 今日でかいやつ見つけたんだ!」
私の手を引いた。
「待て。今は——」
「はやく! 逃げちゃう!」
引きずられた。
でかい虫を30分追いかけた。
夕方、アレンが井戸の前に立っていた。
私は歩いていって、アレンの前に立った。
3度目だった。今度こそ言う。
「アレン。私は——」
息を吸った。
「ヴァルディアだ。千年以上を生きた魔王だ」
アレンが私を見た。
「お前に倒され、転生し、お前に拾われた。復讐するつもりでここにいる」
全部言った。
アレンが少しの間、黙っていた。
「知ってる」
「……何?」
「最初から知ってた」
私は動かなかった。
「魔力の気配は忘れない。拾った夜から、ずっと」
「……なぜ、何も言わなかった」
「お前が言うまで待ってた」
井戸の滑車が、風で少し動いた。それだけが音だった。
私はアレンを見た。アレンは私を見ていた。表情が変わらなかった。怒っていなかった。恐れてもいなかった。ただ、見ていた。
「……復讐するつもりだった。ずっと」
「そうか」
「今もするべきだと思っている」
「そうか」
「……お前は、何も言わないのか」
アレンが少し間を置いた。
「言うことがない」
私は口を開けた。閉じた。
千年分の言葉が、全部どこかに行った。怒鳴ろうとした。できなかった。言い返そうとした。出てこなかった。
アレンが「飯にする」と言って歩き出した。
私はその背中を見た。
(言うことがない、と言った)
復讐すると言った。そうか、と言った。今もするべきだと言った。そうか、と言った。何も言わないのか、と言ったら——言うことがない、と言った。
怒りなのか、呆れなのか、それとも別の何かなのか、自分でもわからなかった。
ただ足が動いて、アレンの後ろをついていった。
夕飯は昨日の残りの汁物だった。
2人で黙って食べた。フィルもリーナもゴルダもいなかった。アレンと私だけだった。
食べ終えて、椀を置いて、私は言った。
「……明日も、復讐計画を考える」
「そうか」
「やめるつもりはない」
「ああ」
「……以上だ」
アレンが椀を重ねた。立ち上がった。片付けを始めた。
私はその背中を見ていた。
(言うことがない、か)
1247年生きてきて、そういう答えを返す人間に、会ったことがなかった。
翌朝、目が覚めて最初にしたことは、復讐計画第2章を考えることだった。
やめる気は、まだなかった。
台所からアレンが粥を作る音がした。




