第6話 買収作戦
作戦を変えることにした。
毒草はなかった。包丁は料理に使わされた。魔法陣は踏まれた。薬草調合はリーナに弱みを握られた。落とし穴はまたがれた。
力で挑むのではなく、情報だ。アレンの弱点を探す。弱点がわかれば、崩しようもある。千年以上、策謀で生きてきた。これが本来の私のやり方だった。
まずフィルに聞いた。
「フィル。アレンの弱点を知っているか」
「アレンさんの弱点?」
「苦手なもの、嫌いなもの、恐れているもの、何でもいい」
フィルが考えた。本気で考えた。10秒考えた。
「……ないんじゃない?」
「そんなはずはない。人間には必ず——」
「だってアレンさん、なんでも大丈夫そうだもん」
「……」
「虫も平気だし、高いところも平気だし、暗いところも平気だし」
「お前は何を調べているんだ」
「えっ、ぼく調べてないよ? なんとなく知ってる」
情報ゼロだった。
次にゴルダに頼んだ。
「勇者の弱点を探せ。自然に、気づかれないように」
「はい! 魔王様のためなら!」
ゴルダが張り切った。
翌日、アレンが私に言った。
「最近、野菜屋にずっと見られてる気がする」
「……そうか」
「何か用があるなら声をかければいいのに」
その日の夕方、ゴルダから報告が来た。
「申し訳ありません魔王様……気づかれました……」
「何があった」
「アレン殿に『何か用か』と直接聞かれまして……とっさに『剣を磨きましょうか』と言ってしまいました」
「……それで」
「磨きました」
「弱点は」
「……見つかりませんでした」ゴルダが肩を落とした。「アレン殿に野菜を1袋買っていただきました」
ゴルダの目が潤んでいた。泣きながら売ったらしかった。
情報ゼロだった。ゴルダの売上だけ増えた。
最後にリーナに聞こうとした。
「リーナ。アレンには——」
「弱点を探してるの?」
0.5秒で気づかれた。
「……違う」
「顔に書いてある」
「書いていない」
「ないわよ、あいつの弱点」リーナが薬瓶を並べながら言った。「強いて言うなら——」
少し間があった。
「あなたかしら」
「……何?」
「あなたが困ってると、あいつ判断が甘くなるから」
私は返事をしなかった。リーナがにやっとした。今週2回目だった。
夜、アレンが夕飯を作っていた。
私は台所の入り口に立ったまま、聞いた。
「……私は、弱点か」
アレンが振り返った。
「何の話だ」
「……何でもない」
アレンが「そうか」と言って鍋をかき混ぜた。
(所要時間、3日。弱点、見つからず。ただし私が弱点らしい)
夕飯を食べながら、その意味をずっと考えていた。
答えは、出なかった。




