第10話 記憶喪失作戦
嘘をつくことにした。
記憶喪失のふりをする。混乱させる。隙が生まれる。単純だが、心理的な揺さぶりは戦略の基本だ。千年以上、策謀で生きてきた私に、嘘がつけないわけがない。
朝食の席で試した。
「私は……自分が何者かわからない……」
アレンが粥をよそいながら言った。
「おかわりあるぞ」
「……名前も……覚えていない……」
「ディアだ」
「……ここは……どこだ……」
「家だ。飯食えるか」
全部、1秒以内に返ってきた。
私は粥を食べた。
昼にリーナが来た。
「リーナ。私は……お前のことが……」
「なにその演技」
5秒だった。入ってきて5秒だった。
「演技ではない」
「目が嘘ついてる」
「……」
「次、どうぞ」
リーナが棚に荷物を置きながら続きを促した。私は続きを言わなかった。
フィルに試した。
「フィル。私は……お前のことがわからない……」
「えっ!」フィルが飛び上がった。「ディア大丈夫?!」
(効いた)
「記憶が……」
「アレンさーん!!」フィルが叫んだ。「ディアが記憶喪失になったー!!」
「違う」
「えっ、なってないの?」
「なっていない」
「なんだ」とフィルが言って、また虫を探し始めた。
切り替えが早かった。
ゴルダに試した。
「ゴルダ。私は……何者だったか……覚えていない……」
ゴルダが固まった。目が揺れた。
「魔王様……! 記憶を……! 3年間の魔力暴発の影響が……!」
「演技だ」
「え」
「演技だと言っている」
「演技、だったんですか……!」
ゴルダがまた泣いた。今度は別の理由で泣いていた。
「なぜ泣く」
「演技だったのに、本気で心配してしまいました……! 私としたことが……!」
「……帰れ」
「はい……!」
夜、アレンに「今日、記憶喪失のふりをしていた」と言った。
「知ってた」
「……なぜ」
「目が嘘ついてたから」
リーナと同じことを言った。
「……全員に同じことを言われた」
「そうか」
(所要時間、1日。成果、ゼロ。全員に目が嘘をついていると言われた)
私は今後、嘘をつく前に目を隠すことにした。




