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継承のセラ  作者: 山久 駿太郎
第七章 -第三の勢力-
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096.使用人、転じて

「ミルカ・ルーヴェン、ただいま馳せ参じました。お待たせして申し訳ありませんご主人様――――テメェこのミルカ様を呼びつけるとは、中々いい度胸してるじゃん」


あの凄惨な夜から、一カ月が経過していた。

私の天幕の中で仁王立ちする桜色の髪の少女、使用人ミルカがこの場に来たということは、即ち私が送った書簡は無事に届き、シンシア団長の許可も下りているということだ。


「悪いなミルカ。オレらじゃあ、もうどうしようもなくてさ。力を貸してほしい。頼む」

私が素直に頭を下げると、ミルカは軽く鼻から息を漏らした。


「冗談だっつの。あんたも大変だったみたいね。何人、その......死んだの?」


天幕の外から聞こえてくる音はない。

復興中の村、そういった雰囲気は一切感じられない。

破壊された家屋が無ければ、木材や石材を叩く音もない。

徐々に夏の強い日差しがヴィレ・バタタを包み込んでいるというのに、季節の移り変わりを知らせる蝉の声も聞こえてこない。

村を覆う空気は息苦しい、どこか停滞をしているように思える。


私は顔を上げ、静かに口を開いた。

あの夜の吸血鬼との死闘、そして失われた同志たちのこと。

慣れない復興作業に疲弊していく兵士たちの現状。

そして亡くなった村人達、サイロ・ペディアーズ二星騎士、この村を飲み込んだ災禍の全容を。

何一つ包み隠さず、一切の婉曲(えんきょく)を許さず、彼女に伝えた。


「――分かった。あとは私に任せな、このミルカ様にね」


自信に満ちたその心強い言葉に、私は深く安堵の息を吐いた。

「助かる。その代わりと言ってはなんだけど、まだ毎日の鍛錬はしてるか?」

「ったりまえじゃん。馬鹿にすんなっつの。絶対にあんたから一本とって、私は戦場に立つんだから」


仁王立ちに映える、強い意思。

彼女の瞳には、パルテンシアの屋敷で見た時と変わらぬ野心が燃えていた。

「そうか――おいハイネ、入ってこい。影で丸分かりだ」


私が天幕の入り口に向かって声をかけると、布が不自然に揺れる。

ミルカが私の言葉で振り返ると同時に、バツの悪い顔で天幕の布をかき分けてハイネが顔を出す。


「えっへへ、あー申し訳ありませんセラ隊長。今日の予定を相談致したく、このハイネ・フォン・ガリレイ。馳せ参じた次第でございます」

「なんだその話し方――別にいつも通りでいい。いや近い。近いっての。肩に手を置くなバカ!」


ハイネは"あの夜"から、変に距離を詰めてくるようになった。

嫌ではないが、少し、というかかなり煩わしい。

私が身をよじって逃れようとしても、彼女は楽しそうに笑って密着してくる。

そんなハイネの様子に、ミルカはあからさまに困惑した顔を見せていた。


だらしない顔のまま、ハイネはようやくミルカに向き直る。

「ミルカも久しぶり。わざわざご苦労さん」

「ご無沙汰しております、ハイネ様!軍服、大変凛々しく似合っております!」

「持ち上げるの上手やねえ。で、セラくん、ウチも交えた話なん?」


予定通り、であっては困るのだが、やはり復興作業は遅々として進んでいない。

家屋や設備への被害はほぼないと言っても過言ではないものの、世話人を失った農作物の手入れという慣れない仕事に加え、硬すぎて歯が欠けたと思う程のパンしかない状況では、どうしても兵は疲弊していく。

訓練も怠るわけにはいかない以上、仲間達には動物の肉を食わせてやりたい。

怪我人とその看護にあたる者を除いた六十人程度で、畑仕事と山間部での狩りを行う必要があった。

王国からの支援物資だけでは、新たな村人を迎える上で懸念が拭えなかったからだ。


そしてこの狩りこそが最大の懸念だった。

山中での狩りでは魔物との戦闘と隣り合わせだ。

私自身はもう慣れたものだが、他の者は違う。

獲物を狙いながらも自身が獲物になりえる緊張感の中、悪路に加え視界の悪さ。

つまり、怪我人は更に増えていくのだ。

このヴィレ・バタタを仕切るのはミルカであるべきであり、山中での指揮は私が行うべきというのが、ない頭を絞って出した結論だ。


「ハイネ、村での復興に関する全権はミルカに委ねる。通達を頼む」

「ぜんけ......え?全権?あの、ご主人様?」

素っ頓狂な声を上げるミルカは無視して、私は話を続ける。


「ミルカの指揮命令はオレの言葉だと全体に認識させてくれ。それと、ミルカはいずれ戦場に出たいらしい。時間を作って鍛錬に付き合ってやってくれ」

「はいはーい。これからよろしくなあ、ミルカ指揮官殿」

「え、あ――えぇ?はい、よろしくお願いしますハイネ様......」

「あと、団長にはミルカの鍛錬については秘密にしておいてくれ。時が来たらオレから話すからさ」


混乱と僅かな歓喜が複雑な模様を形成するミルカの表情は珍しい。

喉を何回か鳴らして事情を呑み込んだ桜色の髪の少女は、手に持っていた革製の鞄から丸められた羊皮紙を取り出した。


「ご主人様のご命令、承知致しました。そしてハイネ様との鍛錬、ご主人様のご配慮に心から感謝を。それと、我が姉から書簡を預かっております」

「シンシア団長から?......あー、分かった。後で読んでおく」


広げた羊皮紙に所狭しと並べられた、砂粒かと見紛う文字の羅列を見て、私はそっと元の丸められた姿に戻す。


「じゃあミルカ、あとはよろしく頼む。ミルカはオレの天幕で寝泊まりしてくれ。負傷者の手当と物資の保管で、もう場所が無いんだ」


「「え」」

二人の声は、気持ちよく重なった。

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