58本目
目が見えないし、しゃべれないし動けない。
ずるずると、どこかへ引きずられていく。
幼虫とかに餌として俺を与えるつもりなのは明白だ。
毒は神経系か…。
今、俺の体内の免疫細胞が毒という異物に対して活性酸素を吹き付けていることだろう。
再度毒を注入された場合、免疫系の過剰反応により、アナフィラキシーショックを起こし死んでしまう可能性もある。
まあ、そんなことよりも生きたまま幼虫に食われる痛みに耐えなければならない。
ふざけんな!!
俺はこんなところで虫に食われながら死にたくはねえ!
怒りが湧くが、動けない以上どうしようもない。
せめて目が見えるようにならないものか…。
リルレにより、恐らく眼球は潰れていることだろう。
いつもやり過ぎなんだよ、あの女!!
いつも俺の中に博士が治療用のナノマシンを注入してくれるおかげか、前より飛躍的に俺の治癒力は上がっていた。
本来ナノマシンは治療後アミノ酸に分解され栄養になるのだが、全部なくなるわけではなく一部は体内に残留し、こういう不測の事態には増殖するようになっているらしい。
前回リルレに手首潰されてロビーで放置されたときも、朝になったら治っていた。
リルレも俺の治癒力を考えて無茶なことをしているのかもしれないホント止めて欲しい。
ちくしょう。
生きて帰ったら、絶対にリルレのあのけしからんおっぱいをめちゃくちゃに揉みしだいてやる。
そう思ったら、俄然戦う気力が湧いてきた。
…動けないままだが。
毒と目に関しては、俺の免疫細胞とナノマシンに頼るしかない。
絶対にチャンスはあるはずだ!!
少し気持ちが落ち着いてきた。
ドアを開け、どこかの部屋…スペースに入ったことがわかる。
果物のような香りと、キュウキュウと鳴き声のようなものが複数聴こえる。
きっと、幼虫を育てている部屋なのだろう。
普段は果物ばかり食べてるから、いい匂いがするのかな…?
『ほら、みんなー。餌持ってきたよー』
俺を投げる。
少しは動けるようになったかな。
目は少しずつ回復してるのがわかる。
幼虫は新しい餌が何だかまだ認識出来ていないようで、近づいて来ない。
俺を連れてきた主は、意識で語れるということは女王候補のひとりなんだろう。
何とか話し合えないだろうか。
「お…い、やめ…ろ…俺は…地球人だ…。俺に何かあったら…地球との外交問題に…なって…しまうぞ」
何とかしゃべれるようになっている。
あんまり刺激すると、また毒針で刺されてしまう可能性があるので、ゆっくり穏便に話さなければならない。
『うーん、わたしは難しいことわからないけど、幼虫ちゃんたちに栄養与えなきゃいけないから、たまたま落ちてたあなたがちょうど良かったの』
難しいことわからないって…思考を放棄するなよ!!
俺の命がかかってるんだぞ!
幼虫たちが慣れてきたのか、キュウキュウ鳴きながら段々寄ってきた。
ヤ、ヤベえ!!
身悶えするが、まだ体が自由にならない。
ちょっと冷たい口先か何かで、俺をツンツンしてる。
食べられるかどうか、探っているのだろうか…?
ちょっとくすぐったい。
が、すぐに体のあちこちから鋭い痛みが走った。
こいつら…俺を食い始めたぞ!!
「いで…や、やめろ…ぐぉ…」
『みんな美味しいかなー? たーんとお食べ』
この野郎~。
暴れたいが、まだ無理だ。
早くしろ、ナノマシン!!
『あ、いいこと教えてあげるね。今、この子たちがもうすぐ蛹になる時期だし、女王様も繁殖期なのね。普段は果物ばかりなんだけど、この時期だけはわたしたちは肉を食べないといけないの。あなたの仲間も今ごろ食べ物に入れられた毒で動けないようにされて、女王様の餌にされてるわよ』
「ッッッ!!! ふ…ざけん…な…俺たちは…お前たちを…救った…んだぞ」
『うん、ホントありがとうねー。そして、餌になってくれてありがとう』
「お前ら…バカだな。魔王たちが…この宇宙の霊子を変換して…しまったら、ぐぉ…お前たちも生きて…いけないんだぞ…どうやって地球人の…俺たちの力なしに魔王たちに…勝つつもり…なんだ!?」
段々しゃべれるようになってきた。
体の痺れも取れつつあるが、様子を見よう。
もう少し目も見えるようになり、動けるようになってからじゃないと、またあの毒針を刺されてしまう可能性がある。
幼虫たちに噛まれて痛いが、ここは我慢だ。
『わたしたちはそんなこと関係ないよ。そんなことより、繁殖の本能があるから、それを満たさないと。宇宙とか、わたしたちはよくわからないしどうでもいいんだ。雄たちはわたしたち雌のやり方に反対みたいだけどね』
恩を仇で返すなど、絶対に許せねえ。
俺は幼虫たちに食われながらも、虎視眈々と反撃のチャンスを狙っていた。




