24本目
「ぶえっくし!!」
おぉ~寒ッ!
気付くと俺は、ビチョビチョのまま椅子に座らされてた。
鼻が少しジンジンする…。
触ると思ったより潰れてないっていうか、全然大丈夫だな。
血も止まっている。
博士が治療してくれたのだろうか…?
みんなも各自椅子に座っていて何やら作業をしている。
ここは…もしかしてヘルメスのブリッジか?
モニターやら計器類やら機械で囲まれている。
うおぉ~~~ッ!!
男なら誰もが憧れを抱かざるを得ない、宇宙戦艦の内部に俺は今、いる!
あー、スマホあったらSNSにアップして自慢するんだけどなー。
しかし、誰も俺のこと拭いてくれなかったのね。
ブリッジ内は暖かいので、そのうち乾くかもだけど。
正面モニターを見るといつの間にか既に出発してたらしい。
これは夜空…ではなく宇宙か!?
「す、すげー! 俺宇宙に来ちゃってるよ…」
「あー、ハゲ起きたのね」
「マミム、俺たち宇宙に来ちゃってるぞ! すげー!!」
「子供ね~。宇宙くらいで騒がないの」
「マミムもさっきまで騒いでたでしょ」
リルレが突っ込む。
「さ、騒いでないもん! ずっと冷静だったもん! うわ~~~ん!!」
めんどくせえやつだな、ホント。
「しかし、なぜわざわざ宇宙に出たんだ? 空を飛んで直接向かった方が速いんじゃないか?」
「衛星兵器コカビエルに上から狙い撃ちされないためだ。ダメージは受けないにしろ、めんどくさいからな。ヘルメスなら大気圏外に出るのはたやすいことだし」
「え、あの衛星兵器ってまだあるのか?」
「地球の周りを約100機ほど周回している。これを機についでに全て破壊する。我々が地下活動しているのは、あれのせいだしな」
「そんないるのか…」
「さて、まずはひとり目の第一世代を回収するぞ。ヘルメスはここに待機。わたしが行って来る」
「宇宙から博士だけで? どうやって!?」
「モード『ソクラテス』になればたやすいことだ。いちいちヘルメスで降りたり上がったりするのは時間が勿体ない」
あー、なるほど。
博士は俺の指を口に入れ、力を解放しモード『ソクラテス』となった。
相変わらず神々しく、美しい顔が露になりフォルムもよりシャープになる。
美女に指を咥えられると、また股間が…!!
「ぼくちんの指、ちょっとイカ臭いな…」
耳元で囁かれる。
や、止めてぇ~~~ッ!!
この人あれだよね、完全に俺を自殺に追い込むつもりだよね…。
「さて、わたしがモード『ソクラテス』でいられるのは10分ほどだから、行って来る」
「あー、いってらっしゃい」
以前リルレはモード『ハルマゲドン』でいられるのは5分とか言ってたので、個人差があるようだ。
博士がブリッジから出て、5分くらいしてブリキのロボットとともに戻って来た。
「早ッ」
「当然だ」
つかつかと俺のところにやってきて、博士はおもむろに俺の唇を奪おうとする。
「ダ、ダメぇ~~~ッ!!」
「オブァッ!!」
俺を思い切り突き飛ばすマミム。
ブリッジの壁に激突し、気を失ってしまう。
…。
……。
…………。
「ハゲ! ねえハゲったら!! いい加減起きなさいよ! ハゲったら!!」
何かムカつく声が聴こえてくる。
目を覚ますと椅子に寝かされていた。
「そろそろ、もうひとりの第一世代と合流出来るぞ」
「ニヌ、あなたがトオルの血以外の体液を取り入れて、モード『ハルマゲドン』になるのはドミニオンズの協定違反だよ」
初めて見るサイボーグが言った。
博士のモード『ソクラテス』って『ハルマゲドン』の前段階なのか。
てっきり、それぞれ解放されたモードに別々の名前が付いてると思ったが、博士だけ特別らしい。
「チッ」
彼女は先ほど博士が連れてきたドミニオンズだろう。
やはり顔を仮面のパーツが覆い、口元だけ生体素材だ。
長身でグレーの短髪、おっぱいは控えめで引き締まっているためか男性的だが、もちろん女性でカッコいい。
「やあ、君があのトオルの生まれ変わりなんだね~。見た目が全然違うけど、髪型とかおしゃれで素敵だね。初めまして、ボクはワヲン。トオルとまた会えてホント嬉しいよ」
そういって俺に抱き付いて頬擦りしてきた。
え、え、何かこの人まともじゃない?
俺のハゲをおしゃれ…だなんて!!
ハゲ、感激!
しかもこのワヲンって人、俺に気があるの!?
あー、俺の童貞この人にあげてもいいやー。
「ちょ、ちょっとあなた、何馴れ馴れしくハゲに近寄ってるのよ。だいたいこれ髪型なんかじゃなくて、ただ単にハゲてるだけなんだけど! ただの汚いハゲなんですけど!!」
「何だい君は? ボクは生前のトオルと恋人同士だったんだから邪魔しないでくれるかい?」
「「えっ、こ、恋人!?」」
俺、こんな美人と付き合ってたのかーーーッ!?
「さらりと嘘をつくな嘘を。トオルは誰も選ばなかっただろ」
と博士。
「早くそのゴミから離れなさい、ワヲン。わたしの前で他の女とイチャイチャイチャイチャ…ホントとんでもないゴミくず未満のゴミだわ」
ゴミくず未満のゴミってだから何?
「む、やはり来たか。前方と後方から合わせてコカビエルが20機接近している」
ブリッジ中央部に機械的なテーブルのようなものがあり、その上の中空に立体映像でヘルメスとそれを囲んでいるコカビエルたちが映しだされた。
コカビエルでけぇ!
ひとつひとつがヘルメスの10倍はあり、メタリックで球状をしており小さい星とも言える。
こんなのに勝てるのか?
以前リルレは一撃でひとつ破壊したようだが…。
「たった20機か。ヘルメスの力を見せてやる。リルレ、お前は今日はまだモード『ハルマゲドン』になってないから、ぼくちんの血で解放し、地上のキクを拾って来てくれ。こちらはコカビエルを片付ける」
もう…もうもう…ぼくちんは止めて……。
「わかった」
リルレが俺の指を咥え、モード『ハルマゲドン』となる。
力を解放されたリルレは白く輝き、思わず見とれてしまうほどに神々しく美しい。
おっぱいも神々しい!!
「じゃ、行ってくるぞゴミ」
リルレは顔を少し赤らめ、ウインクしてブリッジを出る。
え、何、ツンデレ?
あー、何か、あー興奮しちゃう!!
その時、艦内全体に鉄が軋むような嫌な音が響く。
「重力波攻撃を受けてます。ヘルメス、動けません。現在外圧350ペタパスカル、365ペタパスカル…どんどん上昇しております。ヘルメスのバリアが敵の魔法陣により無効化されています」
名前忘れたけど、3人いる第二世代のひとりがオペレーターを務めている。
365ペタパスカルってどのくらいだかわからないけど、何かヤバくないか、これ!?
そういえば、さっきから耳が痛いし呼吸しづらいような…。
「魔法陣だと? やつらめ、いつの間にかコカビエルをいじっていたな。それか進化プログラムを組んでいたか…。ヘルメスはまだ持つが、このままだといずれ圧壊しかねんな。全砲門を開き、レーザーを一斉に放て。蹂躙せよ!!」
立体映像を見ると、ヘルメス全体からレーザーが発射されるも、コカビエルたちに当たる前に軌道が曲がり、1発も命中していない。
「クソめが! やつらめ、重力操作でレーザーを曲げるとは。昔にはなかった能力だ。この300年間、やつらも何もせずにいなかったというわけか。リルレを地上にやったのは間違いだった。いや、やつらの策略にまんまと嵌まってしまったということか」
レーザー攻撃は続けているが、コカビエルたちに届かず無駄ともいえる。
「なあ、全部のレーザーをひとつのコカビエルに集中してみてはどうだ?」
「ぼくちんのクセに生意気だが、ママだから言うことを聞いてやるか。ママだからー」
結構余裕あるじゃん。
俺なんて頭痛くて倒れそうだけどな。
マミムも生身だが、顔色もそんなに悪くないようで、スーツ着てるから平気なのかもしれん。
多分ヘルメスの艦内は外圧をある程度相殺出来る機能があるのだろうが、正直かなりキツい。
早くこの攻撃から逃れて欲しい。
ヘルメスの攻撃をひとつのコカビエルへ集中してみた。
が、残念なことにやはりレーザー軌道を変えられ当たることはなかった。
「クソッ!!」
「680ペタパスカルで外圧の上昇は止まりましたが、トリプル縮退炉エンジンを最大出力まで上げてますが、こちらは動くことも出来ません」
「博士を俺の血でまた解放したら、どうにかならないのか?」
「それは最終手段だな。あと3時間は間をおかないと、わたしは耐えられずに自壊してしまう。別に命は惜しくないが、極炎を倒すために複数のドミニオンズが必要なためまだ死ぬわけにはいかない。それに、まだ手はあるから安心しろ」
博士が不敵に笑う。
「10000km上方に巨大な魔法陣が出現。中から何か出てきます!」
立体映像にも、ヘルメスの上の方に確かに小さな惑星の直径くらいの魔法陣があり、そこからなんと、超巨大な剣が出てきたのだ!!
そ、そんなのありかよ!?
剣が200kmくらいの長さがあるぞ!!
「魔剣ティルヴィングか。極炎め、ひとりで地球ごとドミニオンズ全員を殺すつもりだな。随分と舐められたものだ。エオカ、ホワイトホールエンジンを作動させろ! 反撃の時間だ」
エオカってのは、オペレーターやってるヴァーチューズか。
「ホワイトホールエンジンを作動させると10分で炉が暴走し、太陽系ごと消えてしまう可能性がありますが!!」
「大丈夫だ。5分で片付く」
太陽系って!
ま、まだ死にたくないんですがぁ!!




