第2話 白銀の月、最果ての森 ――アリアドネ
私は歯を食い縛り、槍を構え直した。
星もない夜空に、白銀の月が浮かんでいる。最果ての森の影は地表を覆い尽くすがごとく広がっている。
突如として、その一角から火炎が立ち昇った。かと思うと、それは一瞬で消え、激しい剣戟の音が連続する。
「プラエスタト・ミヒ・ヴィレス・トゥアス・サラマンドラ――立て、火柱!」
黒いローブの青年の詠唱が終わるやいなや、激しい突風とともに再び火柱が立ち昇る。魔法の火炎は木々を焼くことなく、魔獣の群れをひるませる。
「援護、ご苦労っ!」
その群れの中を、赤髪の大男が縦横無尽に大剣で蹴散らしていく。猛り狂った四つ足の黒い毛皮の魔獣どもは、なおも人間を喰らわんと突進してくる。大剣の迎撃をすり抜けた魔獣の鋭い牙が、木の陰にいた白いローブの少女に食い込もうとするその前に、長槍の切っ先でその牙を薙ぎ払った。
カーン、と小気味よい音を立て、折れた牙が跳ね上がる。こちらに向かって転換した魔獣の眉間を、同じ槍で突き刺した。紫色の血が吹き出す。一秒ののち、魔獣はどうと横ざまに倒れた。
巨大な猪にも似た高位の魔獣だ。私は、額の汗をぬぐい、少女に手を差し伸べた。
「お怪我はありませんか、姫!」
「アリアドネ、後ろ! プラエスタト・ミヒ・ヴィレス・トゥアス・ルクス――満ちよ、光芒!」
少女の注意に振り返るや、まばゆい光が辺りに満ちる。次いで、灼熱の炎。
「火炎弾!」
黒いローブの青年が呪文を叫ぶ声が聞こえる。私が再び目を開ける頃には、大剣が魔獣に振り下ろされるところだった。
「あらよっと!」
黒い毛皮の巨体が真っ二つに引き裂かれ、向こう側に赤髪の大男の人懐こい笑みが現れた。




