果ての海より来たるもの(3)
「どういうつもりだ?師は村長の息子の命がけの想いに応えたからこそ、遠路はるばる訪れたというのに」
宛がわれた宿の一室で、ブラザー・リーゴーンが憤慨する。彼は弟子たちの中でも気性が激しい上にファーハル師への崇敬の念が強く、師が軽んじられたと感じると我慢ならないのだ。
それでも、他ならぬ師自身にそうした激しさを窘められて自省してきた成果があると見え、怒りを吐き出した後は冷静さを取り戻した。
「……土地の痩せた孤島だ、人手が割けないというのは分かる。だが、何も大聖堂を建てようという話ではないのだ。今ある祈祷所に手を加えるだけなら資材も人手も最小限で済む。しかしそうした案でも受け入れない。『相応しくない』の一点張りだ。まるで教会そのものを建てたくないかのように」
「他の島民の反応も似たようなものでした。我々の訪問を歓迎している様子に嘘はなさそうだし、ファーハル師の手を取って感極まって涙していた老婆もいたくらいです」
これはベナッハ。
ある程度島の言葉が分かる彼は、村長以外の島民にも話を聞いていた。
「けれど教会の建設や、村長ギャラヴの息子――コンガルの話になると複雑そうな顔をしますね。どこか困惑しているというか……迷惑がっている、とまではいかないですけれど、とにかく歯切れが悪い」
「Quod cibus est aliis, est venenum(ある者にとっての食物は、別の者にとっては毒である)。コンガルが命を賭した訴えも、他の島民にとってはありがた迷惑だったってことかね?にしても奇妙な反応だが」
ロガラッハの軽口に、リーゴーンが苦い顔をする。彼は自分より若年だが学識に勝るロガラッハが、したり顔でラテン語の格言を引くのが嫌いなのだ。無論ロガラッハは分かってやっている。
「ただ……奇妙なことを話している島民がいましたね。早口の方言で会話していて、たぶん僕には分からないと思ったんでしょうけど」
ベナッハはハシバミ色の目を細め、声を低めた。
「『神の家など建てれば、"潮の娘"を怒らせる』と」




