第十七話 はだけたシャツと、秘めた胸の内は
初投稿です。小説の執筆は完全に初心者です。拙い文章ですがよろしくお願いします。この物語には残酷な表現や大人な雰囲気になる表現(※直接的な性的描写はありません)などが含まれます。R15に設定しています。苦手な方はご注意ください。
この物語はファンタジーな異世界で生きる登場人物たちの恋模様を描いています。
・あらすじ
魔法文明が崩壊してその文化が失われていく中、死んだと思われていたはずの魔王が正体を隠して旅をしていた。魔王は旅の中で出会った魔法に憧れる少女と偶然魔王の正体を知ってしまった大男と共に目的の旧女神城跡地を目指して旅を続ける。
宿に戻った大男はベッドで寛ぎ、ポーション屋は隣の部屋で旅人を招く準備をしていた。すっかり日が暮れてから旅人が帰ってきた。
「遅くなりました」
「おう、旦那か」
大男が旅人を迎える。するとポーション屋が部屋から出てきた。
「お帰りなさいませ、旦那様。よければ後で私の部屋に来ていただけますか?見せたいものがあります」
「いいね。ちょうど僕も見せたいものがあるんだ。後で行くよ」
「はい! ぜひ、お待ちしております」
旅人は荷物を下ろして彼女へのプレゼントだけ持ってポーション屋の部屋に入った。扉が閉じると同時に大男はその前に移動して耳をそば立てる。
部屋の中ではポーション屋がグラスを二つ用意して待っていた。旅人は部屋の隅の戸棚に小さな魔導書をおもむろに置いた。
ポーション屋は言う。
「お待ちしておりました、旦那様。こちらにお掛けください」
町で一番安い宿の部屋は狭くて椅子は一つしかない。旅人がその椅子に腰掛けてポーション屋はベッドに腰掛ける。ポーション屋はジュースの瓶を取り出して旅人に見せた。
「これはこの町の名物の飲み物だそうです。よければご一緒に味見しませんか?」
「へぇ。お酒じゃないよね? 僕、実はお酒は飲めない体質なんだ」
「はい。ただのジュースです。旦那様でも飲めますよ」
「それならぜひ飲んでみたいな」
「分かりました。グラスにお注ぎいたします」
ポーション屋は部屋の奥に置いたグラスにジュースを注いだ。そしてこっそりと片方のグラスにだけ小瓶の液体を混ぜる。それから旅人の前に二つのグラスを持っていき、旅人に混ぜ物をしたグラスを差し出した。旅人はそれを受け取る。
二人は乾杯のグラスを鳴らして同時に口をつけた。ポーション屋はごくごくと一気に飲み干したので、旅人もそれにならって飲み干す。すると突然旅人は体がふらついてそのまま前に倒れた。グラスが割れる音が響く。
「ひゃっ! 旦那様!?」
ポーション屋はグラスを置いて旅人に呼びかける。
「旦那様? 旦那様っ!?」
肩を軽く叩いて呼びかけても返事がないので口元に耳を近づけて息を確認すると呼吸が聞こえた。ポーション屋は脈を確認しようとして旅人の手首を掴んだ。手には薄い皮のグローブをつけていたのでそれを外す。するとグローブの下には無数の傷跡だらけの手があった。
「ん?」
ポーション屋は不思議に思って袖を捲ると薄い布が巻きつけてある。それを外すと布の下も大小無数の傷跡で埋め尽くされていて、部分的には皮膚が変色していて痛々しい。思わずすぐに布を巻き直して布の上から脈を測ると一定の脈拍を感じた。
その頃、扉に耳をそば立てていた大男は異常を感じて静かに少し扉を開ける。隙間から覗いた先には倒れた旅人の姿が見えて大男は扉を大きく開けた。
「なんかすごい音がしたけど大丈夫か?」
「あの、旦那様が倒れてしまったんです。命に別状はなさそうなので、ベッドに連れていってもらえますか?」
「旦那のベッドか?」
「いえ、このベッドを使って構いません。起きるまでは私が様子を見ます」
「分かった」
大男はすぐ近くのベッドに旅人を寝かせた。
しかし、ポーション屋は旅人の腕の傷跡が気になって横になった旅人を見つめる。
「失礼します」
そう言いながらポーション屋は旅人のシャツのボタンを外して少し捲るとやはり大量の傷跡と変色した皮膚が見えた。それを横で見ていた大男は青ざめる。
「ひぇっ。何だその怪我。治ってるのか?」
「傷口は塞がってるようですが、拷問の跡でしょうか……。それにしてはお顔は綺麗です。服で隠れる箇所ばかりとなると、虐待の跡かもしれません」
「そんなの見ただけでよく分かるな」
「少しだけ、本で読んだことがあります」
「ふーん。さすがは育ちがいいお嬢さんだ。俺にはさっぱり分からん。他に何か手伝うことはあるか?」
「いえ、あとは大丈夫です。しばらく様子を見てみます」
「そうか。また何かあったら呼んでくれ」
大男は部屋を出た。ポーション屋は割れたグラスを片付けて床を掃除する。ため息をついて部屋の片隅に目をやると旅人が持ってきた魔導書が置いてあった。
旦那様が見せたかったものはこれかもと思ったポーション屋は本を手に取る。開いてみると美しい魔法について書かれた魔導書だった。
旦那様の隣で一緒に見たかったと思ったポーション屋は、再びため息をついて本を閉じて元に戻した。ポーション屋が旅人の様子を見ながら椅子に座ってウトウトしていると、旅人のうめき声が聞こえて目を覚ました。
「旦那様? 大丈夫ですか?」
「うう……あれ? 何で寝ちゃったんだっけ……」
「え、ええと……その……お飲み物を飲んだら急に倒れてしまったんです」
旅人は起き上がる。
「ああ。じゃあ少しお酒が混ざってたのかも。僕、本当にお酒に弱いんだよね」
「そ、そうなんですね。本当に申し訳ありません」
「気にしないで。もしかしてもう夜遅い? ごめんね、ベッドを占領しちゃって」
旅人が立ち上がろうとしてグローブがないことに気づく。
「あっ」
旅人の手の傷跡が剥き出しになっていて、シャツの裾もはだけている。
ポーション屋は慌てて立ち上がって深々と頭を下げて謝る。
「大変申し訳ありません! 隠していらした傷跡を少し見てしまいました……」
しかし旅人は笑顔で答えた。
「ああ、全然平気だよ。気にしないで。むしろこんな汚いものを見せちゃってごめんね」
「し、しかし、痛くないのですか?」
「大丈夫。昔の傷だから、もう全然痛くないよ。本当にごめんね、心配かけちゃって。すぐ出るから」
旅人はシャツを正してグローブをつけてすぐ部屋の出口に向かう。そして持ってきた魔導書に気づいてそれを持って出ていった。
静かな部屋に取り残されたポーション屋はベッドに座って倒れ込む。そして作戦が失敗した悔しい気持ちで枕に顔を埋めて足をバタつかせたが、すぐに疲れてそのまま寝てしまった。
部屋に戻ってきた旅人を見て大男は驚いた。
「お、おかえりっす、旦那。俺はもう寝るんで」
「うん。おやすみ。僕もすぐ寝るよ」
そう言って旅人は寝る準備をした。
大男がぐっすり寝ている横で、旅人はベッドの上で横になり、月の薄明かりに照らされていた。旅人はグローブをしたままの手を見つめて、その手を胸に当てる。長く息を吐いてから旅人は眠りについた。
十八話へ続く
ここまで読んでいただきありがとうございます。作者の心許無い灰色(こころもとないはいいろ)と申します。
なんだか物語が一気に動いたような回でしたね。続きが気になるところかと思うので後書きは早めに終わらせて続きを更新する準備をしようと思います。
今後も不定期の更新になりそうですが、何かしら見える形で応援していただければ幸いです。それでは次回もお楽しみにお待ちください!




