暴かれる順番
嵐は、まだ来ていない。
だが風向きが変わり始めていた。
朝。クレアのリリースは、予想以上の速さで拡散していた。
『二重のサボタージュ』その言葉だけが、一人歩きしている。
「一気に、単純な敵が消えた」
ミアが、画面をスクロールしながら言う。
SNS。
メディア。
コメント欄。
どこも、混乱していた。
「誰が犯人なんだ?」
「結局、誰が悪いの?」
「運営も怪しくない?」
悠司は、静かに言った。
「空白ができたな」
「そう」
ミアは頷く。
「この空白を、どっちが埋めるか」
その頃。ブライスのチーム内でも、異変が起きていた。
「話が違う」一人の男が、声を荒げる。
「単独犯で押し切るはずだった」
「なのに、二重なんて話が出たら」
ブライスは、ゆっくりとグラスを置いた。
「だからこそ、面白い」
「人は、複雑な話を理解できない」
「だから、最終的にはシンプルな嘘に戻る」
彼は、男を見た。
「その役を、君にやってもらう」
男は、言葉を失う。
「俺に?」
「そうだ」
ブライスは、微笑む。
「迷っている内部の人間として、出る」
「完全な嘘じゃない方が、信じられる」
沈黙。
そして。
「リスクが高すぎる」
男は、低く言った。
「もう、引けないだろう?」
ブライスの声は、静かだった。
「ここまで来て」
その言葉に。
男は、何も返せなかった。
夜。
一本の動画が、リークされる。
顔は映っていない。
だが、声は、震えていた。
『正直に言います』
『あの日、別の酒が準備されていたのは事実です』
『でも、それが誰の指示かは分からない』
『ただ』
一瞬、沈黙。
『最初から、結果が決まっていたように感じた』
動画は、そこで切れる。
「上手い」
ミアが、呟く。
「断定しないことで、逆に信じさせてる」
悠司は、画面を見つめたまま言った。
「しかも、内側の声に見せてる」
コメントは、爆発していた。
「やっぱり仕組まれてたんじゃ?」
「勝者側が怪しい」
「全部、出来レース?」
さっきまでの空白が、別の形で、埋まり始めている。
ミアは、静かに言った。
「時間がない」
「このままだと、構造が歪められる」
悠司は、頷く。
「予定通りじゃ、遅いな」
その時。
クレアから、連絡が入る。
『状況は見ているわ』
『でも、今、会見を開けば』
一瞬、間があく。
『弁明に見える』
ミアが、小さく息を吐く。
「同じこと、言ってる」
悠司は、少しだけ笑った。
「だから、順番が重要なんだ」
彼は、フル映像の一部を再生する。
そこには。二人目がタンクに近づく、決定的な瞬間。
「これを、先に出す」
ミアが、目を細める。
「犯人じゃなく、真相の証明として」
「そう」
悠司は、静かに言った。
「まだ、名前は出さない」
夜更け。
短い映像が、公式に公開される。
タイトルも、説明も、最小限。
ただ。時間と、動きだけが、示される。
一人目の接触。
そして。別の時間に現れる、二人目。
それだけで。
「え?」
「本当に、二人いる」
「じゃあ、今までの話って」
再び、空気が変わる。
今度は、疑いではなく、確信に近い違和感として。
ブライスは、その映像を見ていた。
無言で。そして、ゆっくりと笑う。
「いい」
「これで、引き返せなくなった」
彼は、呟く。
「お互いに、な」
同じ夜。
悠司も、窓の外を見ていた。
街は、まだ静かだ。
だが、その静けさは嵐の前のものだった。
「明日だな」
ミアが、後ろから言う。
悠司は、振り返らない。
「ああ」
そして、静かに言った。
「物語を終わらせる日だ」




