最後に残るもの
サンフランシスコの朝は、霧から始まる。
白い墓石の列の中を、ゆっくり進む。
少し後ろを、ミアがついてくる。
やがて、ひとつの墓の前で、悠司は立ち止まった。
イアン・アマネ中佐
アメリカ空軍パイロット
最愛の父
悠司は膝をつき、指で墓石の縁をなぞる。
封筒を置き、ゆっくりと開いた。
中には、一枚の手紙。
父の、力強い筆跡。
『悠司へ。
飛ぶことは、技術だけじゃない。
もう半分は、信頼だ。
仲間を信じろ。自分の作ったものを信じろ。自分を信じろ。
いつか、お前は、俺が始めることしかできなかったものを、運ぶことになる。
その重さを恐れるな。
それは、本物だという証だ。』
悠司は、静かに息を吐いた。
手紙をしまい、墓石に手を置く。
「運んだよ、父さん。
そして、これからも運び続ける」
ミアが、そっと隣に立つ。
風が吹き、カモメが鳴いた。
少し離れた場所で、林と恵子が、その姿を見ていた。
「声をかけなくていいの?」と、恵子が言う。
林は、首を振る。
「重さは、自分で背負うものだ」
二人は、静かにその場を離れた。
砂利を踏む音。
振り返ると、あの投資家が立っていた。
「君は、珍しいものを見せてくれた。節度。深さ。持続する力」
「インドという市場もある。地平線は、思い出じゃない。次の場所だ。」
悠司は、もう一度、墓石に触れた。
霧は、少しずつ晴れていた。
物語は消える。
でも、味は残る。
そして、人はそれを運んでいく。




