(1)帰り道
夕方。
秋の終わりを告げるように、
道沿いの木々は葉をほとんど落としていた。
夕暮れの空は、
薄紫から淡い藍色へと静かに移り変わり、
冷たい風が道の端を吹き抜けていく。
由良は、
理永を家まで送っていた。
並んで歩く帰り道。
吐く息が、
かすかに白くほどけていく。
足元では、
乾いた落ち葉が二人の歩みに合わせて、
かさり、かさりと音を立てていた。
今日も、
いつものように話をしながら、
ゆっくりと歩いていた。
「今日は、ありがとうございました」
理永が、
隣を歩く由良を見上げる。
「こちらこそ。」
「お庭のことも、お茶も。
今日も楽しかったです」
「ああ」
由良は、
小さく頷いた。
風が吹くたび、
理永の髪が頬にかかる。
理永はそれを指先でそっと払いながら、
由良の隣を歩き続けた。
「またいつでも来ればいい」
「……はい」
理永は、
嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、
由良の胸の奥にも、
小さな温もりが灯る。
やがて、
理永の家が見えてくる。
夕闇の中、
家々の窓には少しずつ明かりが灯り始めていた。
いつもなら、
ここで別れる。
けれど今日は、
二人ともすぐには足を止めなかった。
家の前まで来ても、
並んだ歩みが自然に途切れない。
冷たい風が、
二人の間を静かに通り抜ける。
「それじゃあ、また」
理永が、
名残惜しそうに言う。
「ああ。またな」
由良も、
いつもより少しゆっくりと答えた。
理永は、
由良に手を振る。
けれど、
すぐには家へ入らず、
何度か振り返った。
「……次は、いつ会えますか?」
その問いに、
由良は一瞬だけ目を伏せる。
足元の落ち葉が、
風に押されて道の端へ流れていった。
「近いうちに。今度は、もっとゆっくり話そう」
「はい。約束です」
理永は、
ほっとしたように笑った。
それでも、
離れるのは寂しかった。
夕暮れはすでに夜へと変わり始め、
空気の冷たさが少しずつ増していた。
理永が家へ向かって歩き出す。
由良は、
その背中を見送っていた。
扉の前で、
理永がもう一度振り返る。
由良が手を上げると、
理永も小さく手を振り返した。
やがて、
理永が家の中へ入る。
扉が閉まる直前まで、
由良はその姿を見つめていた。
扉が閉まる。
由良は、
すぐにはその場を離れなかった。
冷えた指先をポケットの中で握りながら、
理永の部屋に明かりが灯るまで、
家の前で静かに待っていた。
やがて、
二階の窓に明かりが灯る。
その光が、
夜の始まりかけた道に淡くこぼれた。
由良は、
それを見届けてから、
ようやく踵を返した。
静かになった道に、
さっきまでの会話の余韻だけが残った。
次に会える日を思いながら、
由良もゆっくりと帰路についた。




