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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
■第66章|『ふたりの庭』
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(1)庭

それから、少し。


季節が、

ゆっくりと進んだ。


由良の家の庭には、

いくつもの畝が並んでいる。


最初は、

伸び放題だった草と、

古い木の切り株しかなかった場所。


自然と、

二人が過ごす場所になっていた。


理永は、

隣に立つ由良を見る。


「……ここに庭を作ってよかったですね」


「ああ」


短い返事。


けれど。


その声は、

どこか穏やかだった。


荒地だったそこを少しずつ整えて。


土を耕し、

種を植えた。


理永が植えたところへ、

由良が土を寄せる。


理永が草を抜けば、

由良がその後を片付ける。


言葉を交わさなくても、

次に何をするのかが自然と分かる。


理永が少し身を引けば、

由良が鍬を置く場所を空ける。


由良が土を掘り返せば、

理永がすぐ隣で崩れた土を整える。


いつの間にか。


二人で庭を手入れすることが、

自然になっていた。


「ここ、もう少し空けた方がいいかな」


理永が畝の端を指でなぞる。


「そうだな」


由良が、

鍬を入れる。


その周りを、

妖精たちが飛び回っている。


精霊も、

以前より近くにいることが増えた。


ミケはというと、

二人が作業を始めると、

いつの間にか庭のどこかにいる。


二人の後ろをついてきて、

畑の周りを歩きながら、

時々、髭をヒクヒクさせ土の匂いを嗅いでいる。


理永がしゃがむと、

ミケもその隣に座り込む。


由良が立ち上がれば、

少し遅れてその後を追う。


妖精や精霊たちも、

いつの間にか集まってくる。


「ミケ、日向ぼっこ?」


「にゃ」


「……」


理永が由良を見る。


由良はミケを見たまま、

わずかに目を細めた。


「何してるんだろうね?」


「さあな」


けれど、

その声には微かな笑いが混じっていた。


そんな会話をしながら、

二人は手を動かす。


理永が笑えば、

由良は作業の手を止めずに、その声を聞いている。


理永もまた、

ときどき由良の様子を見ながら、

手を動かしていた。


庭には、

少しずつ変化が増えていった。


野菜が芽を出す。


葉が大きくなる。


花が咲く。


植えたばかりだった木にも、

小さな枝が伸び始めていた。


「……大きくなったね」


理永は、

畑の前にしゃがみ込んだ。


葉をそっと持ち上げる。


その下には、

大きく育った野菜が見える。


由良は、

近くに置いてあった籠を理永のそばへ寄せた。


「これ、もう収穫できそう」


「ああ」


由良も、

畑を覗き込む。


「今日、採ってみる?」


「そうするか」


理永は、

嬉しそうに笑った。


由良はその様子を見て、

わずかに目を細めた。


土に手を入れる。


育った野菜を、

ひとつずつ収穫していく。


理永が根元を押さえ、

由良が固い土をほぐす。


力を入れるタイミングまで、

二人は自然に合わせていた。


籠の中が、

少しずついっぱいになっていく。


理永が籠を持ち上げた。


「持てるよ」


「分かっている」


由良は、

籠の反対側に手を添えた。


「……ありがとう」


「ああ」


二人で籠を運ぶ。


理永は、

庭を見渡した。


「……こんなに採れるんですね」


いっぱいになった籠を見つめ、

理永は呟いた。


自分の家でも、

毎年野菜を育てている。


けれど、

由良の庭でも、これほど収穫できるとは思っていなかった。


「ああ。思ったより多いな」


由良も、

籠の中を覗き込んだ。


「最初は、何もなかったのにな」


由良は、

畑へ目を向けた。


確かに。


土も、

植物も。


以前とは違っていた。


庭には、

いつの間にか妖精や精霊たちが集まるようになっていた。


けれど。


なぜ、これほどよく育つのか。


二人には、

まだ分からなかった。


「次は、何を植える?」


理永が聞く。


由良は、

庭を見渡した。


「理永が植えたいものを植えればいい」


「……私が?」


「ああ」


由良は、

穏やかに答えた。


「じゃあ……考えておくね」


「楽しみにしている」


その言葉に、

理永は小さく笑った。


庭は、

まだ広い。


これから、

いくらでも変えていける。


二人で。


そんなことを思いながら。


理永は、

籠を抱えた。


由良も、

その隣を歩いた。




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