(1)庭
それから、少し。
季節が、
ゆっくりと進んだ。
由良の家の庭には、
いくつもの畝が並んでいる。
最初は、
伸び放題だった草と、
古い木の切り株しかなかった場所。
自然と、
二人が過ごす場所になっていた。
理永は、
隣に立つ由良を見る。
「……ここに庭を作ってよかったですね」
「ああ」
短い返事。
けれど。
その声は、
どこか穏やかだった。
荒地だったそこを少しずつ整えて。
土を耕し、
種を植えた。
理永が植えたところへ、
由良が土を寄せる。
理永が草を抜けば、
由良がその後を片付ける。
言葉を交わさなくても、
次に何をするのかが自然と分かる。
理永が少し身を引けば、
由良が鍬を置く場所を空ける。
由良が土を掘り返せば、
理永がすぐ隣で崩れた土を整える。
いつの間にか。
二人で庭を手入れすることが、
自然になっていた。
「ここ、もう少し空けた方がいいかな」
理永が畝の端を指でなぞる。
「そうだな」
由良が、
鍬を入れる。
その周りを、
妖精たちが飛び回っている。
精霊も、
以前より近くにいることが増えた。
ミケはというと、
二人が作業を始めると、
いつの間にか庭のどこかにいる。
二人の後ろをついてきて、
畑の周りを歩きながら、
時々、髭をヒクヒクさせ土の匂いを嗅いでいる。
理永がしゃがむと、
ミケもその隣に座り込む。
由良が立ち上がれば、
少し遅れてその後を追う。
妖精や精霊たちも、
いつの間にか集まってくる。
「ミケ、日向ぼっこ?」
「にゃ」
「……」
理永が由良を見る。
由良はミケを見たまま、
わずかに目を細めた。
「何してるんだろうね?」
「さあな」
けれど、
その声には微かな笑いが混じっていた。
そんな会話をしながら、
二人は手を動かす。
理永が笑えば、
由良は作業の手を止めずに、その声を聞いている。
理永もまた、
ときどき由良の様子を見ながら、
手を動かしていた。
庭には、
少しずつ変化が増えていった。
野菜が芽を出す。
葉が大きくなる。
花が咲く。
植えたばかりだった木にも、
小さな枝が伸び始めていた。
「……大きくなったね」
理永は、
畑の前にしゃがみ込んだ。
葉をそっと持ち上げる。
その下には、
大きく育った野菜が見える。
由良は、
近くに置いてあった籠を理永のそばへ寄せた。
「これ、もう収穫できそう」
「ああ」
由良も、
畑を覗き込む。
「今日、採ってみる?」
「そうするか」
理永は、
嬉しそうに笑った。
由良はその様子を見て、
わずかに目を細めた。
土に手を入れる。
育った野菜を、
ひとつずつ収穫していく。
理永が根元を押さえ、
由良が固い土をほぐす。
力を入れるタイミングまで、
二人は自然に合わせていた。
籠の中が、
少しずついっぱいになっていく。
理永が籠を持ち上げた。
「持てるよ」
「分かっている」
由良は、
籠の反対側に手を添えた。
「……ありがとう」
「ああ」
二人で籠を運ぶ。
理永は、
庭を見渡した。
「……こんなに採れるんですね」
いっぱいになった籠を見つめ、
理永は呟いた。
自分の家でも、
毎年野菜を育てている。
けれど、
由良の庭でも、これほど収穫できるとは思っていなかった。
「ああ。思ったより多いな」
由良も、
籠の中を覗き込んだ。
「最初は、何もなかったのにな」
由良は、
畑へ目を向けた。
確かに。
土も、
植物も。
以前とは違っていた。
庭には、
いつの間にか妖精や精霊たちが集まるようになっていた。
けれど。
なぜ、これほどよく育つのか。
二人には、
まだ分からなかった。
「次は、何を植える?」
理永が聞く。
由良は、
庭を見渡した。
「理永が植えたいものを植えればいい」
「……私が?」
「ああ」
由良は、
穏やかに答えた。
「じゃあ……考えておくね」
「楽しみにしている」
その言葉に、
理永は小さく笑った。
庭は、
まだ広い。
これから、
いくらでも変えていける。
二人で。
そんなことを思いながら。
理永は、
籠を抱えた。
由良も、
その隣を歩いた。




