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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
■第65章|『知りたい』
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(5)町へ

「……町へ降りよう」


由良が、

そう言った。


理永は、

頷こうとした。


けれど。


足に力が入らない。


「……」


自分では、

気づいていなかった。


魔獣が消えたことで、

張りつめていたものが、

一気に抜けたらしい。


「歩けるか?」


「……はい」


理永は、

一歩踏み出そうとする。


けれど。

足元が、

ふらついた。


「あれ……」


由良が、

すぐに支える。


「無理するな」


「でも……」


「ほら、背負ってやる」


由良は、

理永の前にしゃがんだ。


「え……?」


理永は、

少し驚く。


「町まで遠い」


「……」


理永は、

由良の背中を見る。


そして。


そっと、

その背中に身体を預けた。


「……重くないですか?」


「ああ」


「重いですよね?」


「軽い」


短い返事。


理永は、

少しだけ笑った。


「……そうですか」


由良は、

立ち上がる。


背中から伝わる、

由良の体温。


理永は、

両手をそっと回した。


そして。

山道を、

ゆっくり下っていく。


「あれはなんだったのかな」


「分からない」


「由良にも、分からない事もあるのね」


理永は、

由良の肩越しに、

森を見ていた。


さっきのことを、

思い出す。


赤い瞳。

鋭い牙。


魔獣を前にして、

自分を庇った姿。


「……」


怖かった?


理永は、

少しだけ考える。


確かに、

驚いた。


けれど。


「……かっこよかった」


小さく、

呟いた。


「ん?」


由良が、

少しだけ振り返る。


「……なんでもないです」


理永は、

由良の背中に顔を寄せる。


あの時。


由良は、

自分の前に立ってくれた。


怖いものから、

守ってくれた。


「……私を、守ってくれた」


今度は、

声に出していた。


由良は、

何も言わない。


ただ。


背負った理永を、

落とさないように。


いつもより、

少しだけゆっくり歩いていた。


森を抜ける。


木々の向こうに、

町が見えてきた。


「……町ですね」


「ああ」


理永は、

少しだけ身体を起こす。


そのまま二人は、

町へ向かって歩いていった。


町は、

いつもと変わらない日常。


由良と理永も、

日常に戻っていった。




町からの帰り道。


木々の向こうに、

家が見えてきた。


「……家ですね」


「ああ」


理永は、

少しだけ身体を起こす。


――長いようで短い道のりだった。


理永はまだ、

由良の背から降りようとはしなかった。


由良も、

何も言わない。


帰り道。

少しずつ妖精や精霊たちの姿が戻ってきていた。


木々の間を飛び交う小さな光。


草むらから覗く、

小さな気配。


いつもの森。


いつもの帰り道。


町も、

何も変わっていない。


けれど。


二人の間には、

行きとは少し違うものがあった。


理永は、

由良の背中に身を預けたまま。


今日知ったことを、

静かに思い返していた。


まだ知らないことが、

たくさんある。


けれど。


それを、

少しずつ知っていきたい。


そんなことを思いながら。


理永は、

由良の背中にそっと頬を寄せた。


由良もまた、

何も言わなかった。


ただ。


理永を背負う足取りは、

いつもより少しだけ、

穏やかだった。


二人はそのまま、

家へ向かって歩いていった。





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