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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
■第65章|『知りたい』
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(4)魔獣

帰り道。


二人は、

採ったものを入れた籠を背負い、

町へ向かって森の中を歩いていた。


「今日は、たくさん採れましたね」


理永が、

背負い籠を見ながら言う。


「ああ」


「このまま町まで売りに行きましょう」


理永は、

嬉しそうに笑った。


由良は、

その横顔を見ていた。


けれど。

由良は、足を止めた。


「……由良?」


理永も、

立ち止まった。


「どうしました?」


由良は、

森の奥を見る。


「……静かすぎる」


「え?」


理永が、

周囲を見回す。


さっきまで聞こえていた鳥の声も。


木々の間を走る、

小さな獣の気配も。


何もない。


「……」


理永も、

耳を澄ませる。


「本当ですね」


その時。

森の奥から。


ガサッ。


何かが、

草を踏む音がした。


「……?」


理永が、

そちらを見る。


もう一度。


ガサッ。


今度は、

はっきり聞こえた。


「動くな」


由良の声が、

低くなる。


理永が、

振り返る。


「由良?」


「俺の後ろへ」


いつもとは違う声だった。


理永は、

言われた通りに由良の後ろへ下がる。


そして。


木々の間から、

それが姿を現した。


大きい。


狼に似ている。


けれど。


普通の狼とは、

明らかに違っていた。


「……魔獣」


理永が、

小さく呟く。


由良が、

理永を見る。


「知っているのか?」


「はい……」


理永は、

息を呑む。


魔獣。

本でしか見たことはなかった。

煉獄にいるものだと、聞いていた。


なのに。

どうして、ここにいるのだろう。


魔獣が、低く唸る。


「グルル……」


理永の身体が、

強張る。


「由良……」


「下がっていろ」


「でも……」


由良は、

理永を庇うように前へ出た。


それだけで。

理永は、

それ以上動けなくなった。


由良が、

一歩前へ出る。


魔獣が、

地面を蹴った。


「――!」


一瞬。


何が起きたのか、

理永には分からなかった。


由良の姿が、

消えたように見えた。


次の瞬間。


魔獣の身体が、

大きく弾き飛ばされる。


木に叩きつけられ、

地面へ落ちた。


「……え?」


理永は、

目を見開く。


由良は、

そこに立っていた。


けれど。


いつもの由良ではなかった。


長い黒い髪が、

風もないのに揺れている。


瞳が。


金色から、

赤く変わっていた。


口元から、

鋭い牙が覗いている。


「……由良?」


呼びかける。


由良は、

振り返らない。


魔獣が、

再び立ち上がる。


由良は、

ゆっくりと腕を上げた。


「来るな」


低い声。


次の瞬間。


魔獣が、

再び飛びかかる。


由良の手が、

魔獣の首を掴んだ。


そのまま。


地面へ、

叩きつける。


轟音が、

森に響いた。


魔獣は、

動かなかった。


しばらくして。

その身体から、

黒いものが滲み出る。


「……?」


理永が目を見開く。

黒い靄は、

魔獣の身体を包み込むように広がっていく。


そして。

それは、ゆっくりと霧のようにほどけていった。

地面には、

何も残っていなかった。


「……消えた?」


理永が呟く。

由良は、

消えた場所を見つめていた。


「……そう、だな」


由良は、

しばらくそれを見下ろしていた。


そして。


ゆっくりと、

理永を見る。


赤い瞳。

鋭い牙。

見たことのない姿に。


理永は、

動けなかった。


怖い。

そう思った。


けれど。

それ以上に。


「……由良」


由良の目が、

少しだけ揺れる。


そして。


赤かった瞳が、

いつもの蜂蜜色へ戻っていく。


牙も、

いつの間にか消えていた。


「……怖かったか?」


理永は、

すぐには答えられなかった。


けれど。

小さく首を横に振る。


「……少し、驚きました」


由良は、

黙っている。


「でも……」


理永は、

由良を見る。


「助けてくれました」


「……怪我はないか?」


「はい、ありがとうございます」


理永は、

小さく笑った。


由良は、それ以上。

何も言わなかった。


ただ。

理永のところまで歩いてくる。


そして。

いつものように、

その手を差し出した。


理永は、

その手を見る。


今まで何度も、

触れてきた手。


けれど。

今は。


少しだけ、

違って見えた。


「……由良」


「ん?」


「今の……」


理永は、

言葉を探す。


「……何だったんですか?」


由良は、

少しだけ黙った。


「俺は、吸血鬼だ」


「……吸血鬼」


理永は、驚きを隠せず。

その言葉を繰り返した。


知らなかった。

ずっと一緒にいたのに。


まだ。

知らないことがあった。


理永は、

差し出された由良の手を見つめる。


そして。

そっと、

その手を取った。


「由良、まだ隠してる事がある?」


由良は、

理永を見る。


「ああ」


短い返事。


けれど。


その声は、

どこか優しかった。




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