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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
■第65章|『知りたい』
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(2)庭と依頼

しばらくして。


理永は、

窓の外を眺めていた。


ミケは、

いつの間にか日当たりの良い椅子の足下へ移動している。


「……ミケ」


呼ぶと。


「にゃ」


小さく鳴いて、

尻尾だけが揺れた。


理永は、

少し笑う。


そして。


もう一度、

窓の外を見る。


「……」


庭。


以前来た時よりも、

ずっと広く感じた。


あの時は、

まだ家の改装途中だった。


周囲に生えていた木も、

由良がかなり切り倒していた。


家の材料にしたり。

薪にしたりしたみたいだけど。


庭までは、

手が回らなかったらしい。


伸び放題の草。


放置されたままの切り株。


ところどころに、

小さな木まで生えている。


「……勿体ないですね」


理永が呟く。


「何がだ?」


向かいに座っていた由良が、

理永を見る。


「この庭です」


「庭?」


「こんなに広いのに……」


理永は、

窓の外を指した。


「ずっと使われていませんよね」


由良も、

庭を見る。


「そうだな」


「手入れはしないのですか……?」


「ああ」


「……やっぱり」


由良は庭には興味なさげに答える。


理永は、少しだけ呆れたような顔をする。

そして、少し考える。


由良は、

少し前までテントで暮らしていた。


それが突然、

この古い屋敷を買って。


家を直して。


今はここで暮らしている。


庭まで手を入れる余裕がなかったとしても、

不思議ではない。


けれど。


やっぱり、

不思議な人だと思う。


「……由良って」


「ん?」


「前は、テントで暮らしていましたよね?」


「ああ」


「それなのに……」


理永は、

もう一度屋敷を見る。


「どうして、この家を買ったんですか?」


由良は、

少しだけ黙った。


「必要になった」


「必要……?」


「ああ」


それ以上は、

答えなかった。


理永は、

少し首を傾げる。


やっぱり。


よく分からない。


けれど。


今は、

それ以上聞かなかった。


「……そういえば」


理永は、

ふと思い出す。


「今度、山へ食材を採りに行こうと思っているんです」


「山へ?」


「はい」


「何を採る?」


「季節のものをいろいろと」


理永は、

少し考えてから続けた。


「町で売ろうと思っています」


「エルドが毎年そうしていたので、私も成長しましたし」


理永は、嬉しそうに自分の背が伸びたことを示すように、手を少し上げた。


由良は、

黙って聞いている。


「それで……」


理永は、

少しだけ姿勢を正した。


「護衛をお願いしてもいいですか?」


「ああ」


返事は、

すぐだった。


「ありがとうございます」


理永は、

ほっとしたように笑う。


「依頼料なんですけど……」


「ん?」


「採ったものを町で売って、その代金を半分ずつにするのはどうでしょう?」


由良は、

少し考えた。


「半分?」


「はい」


「それでいい」


あっさりと、

由良は頷いた。


「よかった」


理永は、

小さく息を吐く。


そして。


また、

窓の外を見る。


「……それなら」


理永の視線が、

庭へ向く。


「この庭も、使わせてもらえませんか?」


由良が、

庭を見る。


「庭を?」


「ええ」


「何に使う?」


「野菜を育てたいです」


理永は、

少しだけ身を乗り出した。


「ここなら、たくさん育てられそうです」


広い庭。


今は、

雑草ばかりが生えている。


「由良が庭を使う予定がないようなら」


「私に庭を使わせてもらえませんか?」


理永は、

庭を見ながら続ける。


「育てたものは、家で収穫した野菜達と一緒に町で売ります」


そして。


少し考えてから。


「その分から、庭を使わせてもらう分も払います」


由良は、

黙って理永を見る。


「それなら……」


理永は、

指を折るように考える。


「由良は、庭の手入れをしなくて済みます」


「……」


「護衛料も、収穫したものから払えます」


「……ああ」


「それに」


理永は、

少しだけ笑った。


「採れた野菜は、由良も食べられますよ」


由良が、

庭を見る。


しばらくして。


「……悪くないな」


「でしょう?」


理永は、

嬉しそうに笑った。


その足元で。


「にゃーっ」


ミケが、

ゴロンと寝転び、伸びをする。


「ミケも、野菜食べますか?」


「にゃ」


「……食べるのか?」


由良が、

ミケを見る。


「ふふ」


理永が笑う。


そして。


「じゃあ、明日から少しずつ始めてもいいですか?」


由良は、

理永を見る。


「ああ」


短い返事。


それだけだった。


けれど。


理永は、

なんとなく嬉しかった。


これから。


この庭に、

自分の育てたものが増えていく。


そして。


また明日も。


ここへ来られる。


そんなことを考えながら、

理永は窓の外を眺めていた。





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