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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
■第65章|『知りたい』
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(1)また、会いたい

翌週。


理永は、 森の中を歩いていた。


向かう先は、 由良の家。


手には、 小さな籠を持っている。


中には、 庭で採れた野菜が入っていた。


けれど。


本当は、 それだけではなかった。


「……」


理永は、 足を止める。


先週も、 由良のところへ行った。


その前の週も。


そして。


また今日も、 向かっている。


「由良、家にいるかな?」


小さく呟く。


理永は無意識に、

あの神聖力を。

もう一度、 流してほしい。

そう思っていた。


あの力に触れると、

胸が暖かくなる。

浄化の力なのか。

身体の中が、静かにクリアになる。


自分の魔力とは違う。


けれど、 不思議なくらい澄んでいて自然だった。


だから。

もう一度。

そう思った。


ただ。


「……私、こればかりお願いしているような……」


少しだけ、 困ったように眉を寄せる。


由良は、 何も言わない。


いつも、 理永が望めば手を差し出してくれる。


それが嬉しい。


けれど。


神聖力を流してもらうためだけに、 会いに行っているような気がした。


「……」


理永は、 籠の中を見る。


採れたばかりの野菜。


「……これなら、由良も食べてくれるかな」


別の理由になる。


由良に少しでもお礼したいし。


そう思った。


そして。


再び歩き出す。


森の奥。


見慣れた家が、 少しずつ見えてきた。


理永は、 その姿を見つけると、


ほんの少しだけ、 歩く速度を速めた。


「……由良」


名前を呼ぶ。


返事はない。


けれど。


それでも、 理永は少しだけ笑った。


会える。


それだけで、 なぜか嬉しかった。




家の前まで来ると。


理永は、

小さく息を吐いた。


扉を叩く前に。


「……」


少しだけ、

立ち止まる。


何を言おう。


野菜を渡すだけなら、

すぐに済む。


けれど。


本当は――


神聖力を、

流してほしい。


そして、由良ともっと一緒にいたい。

そう思っていた。


理永は、

小さく首を振る。


そして、扉を叩いた。


待っていたかのように。

すぐに扉は開かれた。


「どうした?」


「あの、沢山取れたから……」


いつもの由良だった。


その足元から、

ミケが顔を出す。


「こんにちは、ミケ」


理永がしゃがむと、

ミケが足元へ寄ってくる。


カゴの中から煮干しを2匹ほど出し、

ミケに差し出す。


煮干しを咀嚼するミケの背中を、そっと撫でる。


「今日も、何か持ってきたのか?」


由良が、

籠を見る。


「はい」


理永は、

籠を差し出した。


「庭で採れた野菜です」


「野菜か」


「たくさん採れたので……」


少しだけ、

言葉を止める。


「……由良も、食べますか?」


「ああ」


由良は、

籠を受け取った。


「ありがとう」


「いえ」


それだけなのに。


理永は、

少し嬉しかった。


ミケが、

籠の中を覗き込む。


「もうミケの分はないですよ」


そう言うと、

ミケが小さく鳴いた。


「……欲しいのか?」


由良が、

ミケを見る。


「にゃ」


「食いしん坊だな」


「ふふ……」


理永は、

小さく笑った。


いつもの時間。


いつもの場所。


けれど。


今日も、

ひとつだけ。


お願いしたいことがある。


理永は、

窓辺の椅子へ座った。


由良が、

いつものように花茶を淹れる。


淡い香りが、

部屋に広がる。


理永は、

カップを両手で包んだ。


「……」


言おうと思う。


けれど。


なかなか、

言葉が出てこない。


由良は、

何も言わずに待っている。


やがて。


理永が、

小さく口を開いた。


「……由良」


「ん?」


「あの……」


少しだけ、

視線を落とす。


「今日も……」


そこで、

言葉が止まる。


けれど。


理永は、

ゆっくり顔を上げた。


「……神聖力を、流してもらってもいいですか?」


由良は、

少しも驚かなかった。


「ああ」


それだけ。


由良が、

手を差し出す。


理永は、

その手を見る。


何度か触れた手。


それでも。


触れる前は、

少しだけ緊張する。


理永は、

そっと手を重ねた。


温かい。


次の瞬間。


静かな力が、

手のひらから入ってくる。


ゆっくり。


腕へ。

身体の中へ。


理永は、

目を閉じた。


やっぱり。


この感覚は、

心地いい。


身体の奥にあったものが、

静かにほどけていく。


「……」


理永の指が、

ほんの少しだけ動く。


そして。


由良の手を、

そっと握った。


由良は、

何も言わない。


ただ。


そのまま、

理永の手を受け止めていた。


しばらくして。


理永が、

小さく息を吐く。


「……やっぱり」


「ん?」


「……落ち着きますね」


由良は、

静かに理永を見る。


「ああ」


それ以上、

何も言わなかった。


けれど。


理永は、

その手をすぐには離さなかった。




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