(12)いつもの暮らし
理永は、
空魔石を見つめていた。
もう一度。
胸の奥へ意識を向ける。
そこにあるものを、
ほんの少しだけ動かしてみる。
すると。
指先に、
淡い金色の霧が現れた。
「……!」
けれどそれは、
ほんの一瞬のことだった。
ふわりと現れて。
そのまま、
空気の中へ溶けるように消えた。
「あっ…消えちゃった」
理永は、
指先を眺めた。
少し離れたところでは、
妖精たちがじっとこちらを見ている。
精霊も、
何も言わずに見守っていた。
「なんでなの?」
理永は、
ため息を付き小さく笑った。
それからも。
少しずつ。
毎日の中で、
魔力を動かす練習をするようになった。
朝。
窓を開ける。
森の空気を吸い込んで。
指先へ、
ほんの少しだけ魔力を集める。
金色の霧が、
ふわり。
そして、
消える。
昼。
お茶を淹れ。
今度は、
胸の奥から指先まで。
ゆっくりと、
魔力を動かしてみる。
途中で分からなくなって、
止まることもある。
それでも。
少しずつ、
分かるようになってきた。
今はまだ、
目に見える形で、
コントロールできていないだけ。
魔力は確かに、
自分の中にある。
そして。
自分の意思で、
ほんの少しなら動かせる。
「……面白いわね」
理永がそう呟くと。
近くにいた妖精が、
嬉しそうに飛び回った。
そんな日々が、
続いていった。
ある日。
理永は、
小さな空魔石を首から下げた。
「これなら、ずっと持っていられるわね」
空になった魔石の可能性を捨てるつもりはなかった。
アクセサリー代わりに身につけていればいい。
いつか、何か分かるかもしれない。
それから。
理永は、
その魔石を身につけたまま暮らすようになった。
森を歩く時も。
畑の手入れをする時も。
妖精たちと過ごす時も。
お茶を飲む時も。
由良が訪ねてきた時も。
ミケがいつものように、
ベッドで昼寝をしている時も。
特別なことは、
何も起こらなかったけど。
魔石は、
ずっと空っぽのまま。
だったけれど。
理永は、
気にしなかった。
魔力を動かす練習も。
いつしか、
日常の一部になっていた。
指先に金色の霧が現れて。
すぐに消える。
それを、
何度も繰り返す。
上手くいかない日もあれば。
少しだけ長く、
留まる日もあった。
由良は、
そんな理永を急かすことなく見ていた。
「今日は少し長かったな」
「分かる?」
「ああ」
「自分では、よく分からないのよ」
「そのうち分かるようになる」
「そうかしら」
「そうなると思う」
そんな会話をしながら。
また、
時間が過ぎていった。
季節が変わる。
森の景色も、
少しずつ変わっていく。
理永は、
いつものように暮らしていた。
ある日のこと。
理永は、
ふと首元へ手を伸ばした。
身につけていた魔石を何気なく手に取り。
いつものように、ふわりと魔力を動かす。
「……あれ?」
ほんの少し。
石の奥に、
淡い光があった。
理永は、
目を細める。
空だったはずの魔石。
以前は、
何の光もなかった。
けれど。
今は。
ほんのわずかに。
金色の光が、
石の中で揺れている。
「……これ」
理永は、
しばらく黙って見つめた。
指先に視線を落とす。
そこから、
何度も消えていった金色の霧。
そして。
もう一度、
魔石を見る。
「……もしかして」
理永は、
小さく呟いた。
「入った?」
どれだけの魔力が、
この石に入ったのか。
分からない。
ただ。
気がつけば。
空だった魔石の中に、
少しだけ魔力が溜まっていた。
理永は、
嬉しそうに笑った。
「……できた」
その声を聞いた妖精たちが、
一斉に理永の周りへ集まる。
精霊も、
静かにその光を見つめていた。
理永は、
魔石を両手で包む。
まだ、
ほんの少し。
それでも。
確かに。
自分の魔力が、
ここにある。
「……できたんだ」
森の中で。
小さな光が、
静かに揺れていた。
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