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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
■第62章|『可能性』
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(11)神聖力

それから数日後。


理永は、

由良と一緒に川上の洞窟へ向かっていた。


以前、

空になった魔石を置いていった場所。


洞窟の奥には、

あの日と同じように、

いくつかの魔石が転がっている。


理永は、

置いておいた空魔石を拾い上げた。


「……やっぱり、変わってないわね」


表面を眺める。


色も。

光も。


数年経っても、変わっていない。


「魔力が溜まるには、

一体どれだけの時間が必要なのかしら」

「100年?それとも1000年?それとも……もっと?」


「……もっとかもしれないな」


由良は、

理永の手元を見ながら答えた。


「あーあ……私が生きている間には、戻らないかもしれないわね」


理永は、

空魔石をしばらく眺めていた。


そして。


「……由良」


「ん?」


「この魔石に、魔力を入れることって……できないのかしら?」


由良は、

少しだけ目を細めた。


「魔力を?」


「ええ」


理永は、

空魔石を両手で包む。


「空になったのなら。

もう一度、魔力を入れられないかなって」


「なるほど」


「でも……」


理永は、

少し困ったように笑った。


「自分の魔力を、どうやって動かすのか分からないの」


少し前に、

手紙で相談したこと。


由良も覚えている。


「魔力を動かす感覚、だったな」


「うん」


理永は頷いた。


「本に書いてあることは分かるんだけど」


「実際にどうするのかまでは……」


言葉を止める。


胸元に手を当てた。


「ここにあることは、

分かるんだけどね」


由良は、

その様子をしばらく見ていた。


やがて。


「……少し、試してみるか」


「え?」


「魔力そのものじゃない」


由良は、

自分の手を見つめる。


「俺が使えるのは、

神聖力だ」


「神聖力……?」


理永は、

その言葉を繰り返した。


「魔力とは違う」


「でも」


由良は、

理永を見る。


「力を動かす感覚なら、

少し似ているかもしれない」


「……似ている?」


「ああ」


由良は、

少しだけ考えてから続けた。


「実際に感じてみた方が早いだろう」


理永は、

少し迷った。


けれど。


「……お願いします」


小さく頷く。


由良が、

理永の手に触れた。


その瞬間。


淡い光が、

二人の間に生まれた。


理永は、

思わず息を止める。


何かが。


自分の中へ、

ゆっくりと入ってくる。


怖くない。

むしろ。


「……暖かい」


思わず、

声が漏れた。


ふわり。

胸の奥へ、

淡い光が広がっていくようだった。


水が流れ込むようでもなく。

炎のように燃えるわけでもない。


澄んでいた。


静かに。

柔らかくて。


広がっていく。

どこか安心するような、

不思議な暖かさだった。


「……気持ちいい」


理永は、

自分でも驚いたように呟いた。


由良は何も言わない。


ただ、

神聖力をほんの少しだけ流している。


しばらくして。


その力が、

ゆっくりと消えていった。


理永は、

自分の手を見つめる。


「……今のが、神聖力?」


「ああ」


「魔力とは……違いますね」


「そうだな」


理永は、

少し考える。


けれど。


「でも……」


胸元に手を当てた。


「少しだけ、

似ている気がします」


由良は、

小さく頷いた。


「なら、試してみよう」


「……何を?」


「さっき感じたものを、

覚えているか?」


理永は、

目を閉じた。


胸の奥。


いつも感じていた、

あの温かなもの。


今までなら。


ただ、

そこにあるだけだった。


けれど。

さっき感じた神聖力が、

身体の中を動いていった感覚を思い出す。


「……」


理永は、

ゆっくり息を吐いた。


そして。


胸の奥にあるものへ、

意識を向ける。


ほんの少し。


何かが、

動いた気がした。


「……あ」


目を開く。


手のひらを見る。

何も起きていない。


いや確かに。

今までとは、

何かが違っていた。


「……動いた?」


理永が、

小さく呟いた。


「今、動いた気がする」


由良は、

それを聞いて微かに笑った。


「そうか」


理永は、

もう一度。


自分の胸へ手を当てる。


今度は、

さっきより少しだけ。


自分の中にあるものが、

自分の意思で動いた。


空魔石が、

手の中で静かに揺れる。


理永は、

それを見つめた。


「……これなら」




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