(10)雨の日
それからも。
理永と由良の文通は、
少しずつ続いていった。
魔石の話をする日もあれば。
森で見つけたもの。
その日の出来事。
ミケがどこで寝ていたとか。
そんな、他愛のない話を書く日もあった。
由良から届く返事も、
少しずつ長くなっていった。
理永は、
届いた手紙を読むたび、小さく笑った。
手紙を書くことが、いつの間にか楽しみになっていた。
ある日のこと。
理永は、いつものように紙を広げ少し考えてから。
筆を走らせる。
――パイを焼いたので。
――明日、一緒にお食事でもどうですか?
書いたあと。
理永は、
しばらくその一文を眺めていた。
「……」
なんとなく、
少しだけ恥ずかしい。
けれど。
紙を折りたたんで、
ミケの首に結んだ。
「ミケ、お願いね」
ミケは、
いつものように歩いていった。
翌日。
目覚めると朝から、
雨が降っていた。
森も、
いつもより静かだった。
窓の外を眺めながら、
理永はお茶を淹れる。
湯気が、
ふわりと立ち上る。
二つのカップ。
テーブルには、
小さなお菓子も用意した。
「……これなら大丈夫ね」
理永は、
椅子に座った。
しばらくして。
時計を見る。
まだ、
約束した時間には早い。
もう一度、
窓の外を見る。
雨は、
まだ降っている。
「……雨なかなか止まないわね」
ぽつりと呟いた。
少し経って。
お茶が、
少し冷めてきた。
理永は、
カップを持ち上げる。
ひと口。
「……」
もう一度、
窓を見る。
誰も来ない。
さらに、
時間が過ぎた。
雨音だけが、
静かに響いている。
「……どうしたのかしら」
理永は、
小さく首を傾げた。
もしかしたら。
今日は来られないのかもしれない。
そう思った。
けれど。
それなら、
そう書いてくれてもよかったのに。
そんなことを考えて。
理永は、
ふと手を止めた。
「……あれ?」
胸の奥が、
少しだけ寂しい。
どうしてだろう。
由良とは。
ただ、
手紙をやり取りしているだけだったのに。
今日は、
来てほしかった。
そう思った瞬間。
理永は、
少しだけ驚いた。
「……私」
誰もいない部屋で、
小さく呟く。
「待っていたのね」
窓の外を見る。
雨は、
まだ止まない。
理永は、
冷めてしまったお茶を見つめた。
雨が止んだのは、
夜になってからだった。
理永は、
一人で片付けをしていた。
二つのカップ。
一つは、
口をつけられていない。
「……また今度、誘えばいいわ」
そう言って。
自分に言い聞かせるように、
小さく笑った。
けれど。
その夜は。
眠る前になっても。
理永の頭には、
由良のことが残っていた。
――今日は、来なかった。
それだけのことなのに。
なぜか、
少し寂しかった。
理永は、
まだ知らなかった。
いつの間にか。
手紙を待つことも。
声を聞くことも。
姿を見ることも。
少しずつ、
楽しみになっていたことを。
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森の奥。
由良は、
雨に濡れて帰ってきたミケを抱き上げていた。
「今日は無理そうだな」
雨に濡れたミケは、
不満そうに鳴く。
「この雨では、お前も嫌だよな」
由良は、
ミケの首元を見る。
そこには、
手紙はなかった。
どうやら。
今日の文通は、
お休みらしい。
「……仕方ないな」
そう呟いて。
由良は、
ミケを抱いたまま、
森の奥へ戻っていった。




