(9)相談
その日も。
理永は、いつものように魔力石をいくつか並べていた。
最近は、石を眺めるだけではなく。
中にある魔力が、
どのくらい残っているのか。
そんなことまで、
少しずつ気になるようになっていた。
けれど。
分からないことの方が多い。
理永は、一番近くにあった石を手に取った。
「……うーん」
しばらく眺めて。
ふと思い出す。
――由良なら。
沢山の事を知っているし、
魔力石のことも、
自分よりずっと知っているかも。
そう思うと。
理永は、机の上に置いてあった紙を引き寄せた。
最近では。
ミケが手紙を届けてくれることにも、
すっかり慣れていた。
『魔力石について、聞きたいことがあります』
そう書いて。
少し考える。
『魔女は、魔法を使うんですよね?』
そこまで書いてから。
理永は首を傾げた。
自分も魔女だと分かっている。
けれど。
魔法を使った記憶はない。
正確には。
使い方が分からないのだ。
――もしかすると、無意識に使っているのかもしれない。
妖精や精霊がいれば、
困ることがなかった。
水が欲しければ水が現れる。
火が必要なら火が灯る。
暗い夜道を照らしてくれる。
重いものがあれば、
いつの間にか動いている。
だから。
魔法というものを、
実際に使ったことがあるのか。
理永には分からない。
思い切って、
『私、魔女なのに魔法の使い方を知らないんです』
そう書いてから。
少し恥ずかしくなった。
けれど。
せっかくなので、そのまま続ける。
『本には、魔力を使って魔法を発動させると書いてありました』
『でも、魔力をどうやって動かすのかは分かりません』
『魔力石の魔力は感じられるんですけど』
そこまで書いて。
理永は、もうひとつ疑問を付け足した。
『魔力って、使うことしかできないんでしょうか?』
書き終える。
「……これでいいかな」
紙を折る。
いつものようにミケに託すと。
しばらくして。
返事が届いた。
『魔女が魔法を使うこと自体は間違っていない』
『だが、魔法の使い方を知らない魔女がいても、不思議ではないだろう』
理永は、その一文を読んで。
少しだけ笑った。
「……そうなの?」
続きには。
魔力についての簡単な説明が書かれていた。
魔力は、
決まった形を持つものではない。
魔法を使う時には、
身体の中にある魔力を外へ出し使用する。
けれど。
それ以上のことは、
あまり詳しく書かれていなかった。
理永は、その文章を何度も読み返す。
「……外へ、出す?」
小さく呟く。
そして。
自分の胸元へ手を当てた。
魔力。
ずっとそこにある。
初めて感じた、
あの温かな感覚。
それを。
外へ動かそうとする。
が……
「んー。ぜんぜんわからないわ」
理永は少しだけ考えてから、
紙を取り出した。
『由良は、魔力を動かす感覚が分かりますか?』
しばらくして。
返事が来る。
『分かる』
短い答えだった。
理永は、
その紙を見つめる。
「……そっか」
それなら。
ひとつ、
頼んでみてもいいかもしれない。
『今度会った時に、少しだけ教えてもらえませんか?』
書いてから。
理永はペンを止めた。
「……教えてもらう、っていうのも変かな」
魔法そのものを教えてほしいわけではない。
ただ。
自分の中にある魔力が、
どう動くものなのか。
それを知りたいだけだった。
けれど。
他に聞ける相手もいない。
理永はそのまま、
ミケに手紙を託した。
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その日の夜。
由良は届いた手紙を読んでいた。
最後の一文。
『今度会った時に、少しだけ教えてもらえませんか?』
その文字を、
しばらく見つめる。
由良は、
小さく息を吐いた。
「……そういうことか」
理永はまだ。
自分の魔力がどう動いているのか、
ほとんど知らない。
妖精や精霊がそばにいることで、
それを意識する必要もなかったのだろう。
なら。
少しくらいなら。
由良は、
紙を丁寧に折った。
「……分かった」
次に会った時。
ほんの少しだけ。
理永に、
その感覚を知ってもらえばいい。
それ以上は。
理永自身が、
見つけていけばいいのだから。




