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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第60章|『転生』
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(6)川上の光

それから、また。

いくつもの季節が過ぎ。


理永の身体も、少しずつ成長していた。

見た目は十歳ほどだった。


以前よりも手足は伸び、歩くことも随分と楽になった。


それでも、人間の十歳と比べれば小柄だったが。

長命な魔女にとって。

十年、二十年という時間は、まだほんのわずかなもの。


理永自身も、それを特別なことだとは思っていなかった。


朝になれば起きて。

庭の植物に水をやり。

薬草を摘む。

ポーションを作る。


必要なものがあれば、街へ行く。


そして――


川へ魚をとりに行く。


それも、いつものことだった。


―――――――――――――――――――


その日も。


理永は籠を手に、森の中を歩いていた。

目的は、川に仕掛けてある魚の罠。


水の精霊が、理永の少し前をふわふわと進んでいる。


木々の間から、せせらぎの音が聞こえてくる。


やがて。陽の光がさす。

いつもの小川が見えてきた。


「今日は、いるかな?」


理永は川辺にしゃがみ込む。


水は澄んでいる。


水の精霊が、楽しそうに水面を揺らした。


「ふふ」


理永も小さく笑う。


罠を引き上げる。

中には、何匹かの魚が入っていた。


「いっぱい」


魚を籠へ移す。

罠を元の場所へ戻し、立ち上がる。


いつもなら、そのまま家へ帰る。


けれど。

その日は。

水の精霊が、いつもとは違う動きをした。


ふわりと。

理永の前を通り過ぎる。


そして。

上流へ向かって飛んでいく。


「……?」


理永は首を傾げた。


「そっち?」


精霊は少し先で止まり、また進む。


理永はしばらく考えてから。


「……見に行くの?」


精霊は答えない。


ただ、また上流へ向かう。


「分かった」


理永は籠を持ち直した。


今日は急ぐ必要もない。


少しだけ。

いつもより上へ行ってみることにした。




川を遡る。

いつもの場所よりも、木々が深い。


足元には大きな石が増えていく。

水の流れも、少しずつ速くなる。


理永は足元を確かめながら歩いた。


身体は十歳ほどになったとはいえ。

まだ小さい。


大人なら簡単に越えられる岩も、理永にとっては少し大きかった。


それでも。

水の精霊が先を進み。


風の精霊が枝を揺らして、通りやすい場所を教えてくれる。


「……こっち」


理永は自然と道を選んでいった。


しばらく歩いたところで。


ふと。

水面に何かが光った。


「……?」


理永は足を止めた。


川の中に。

小さな石が、きらりと光っている。


「あっ」


しゃがみ込んで拾い上げる。


丸く、指先ほど小さいそれは。

淡い光を帯びている。


「……これ」


見覚えがあった。


これまでにも。

何度か川で拾ったことがあったから。


小さな瓶に、少しずつ集めていた。


光にかざすと、ほんのりと色が変わる。


「きれい」


理永は嬉しそうに笑った。


大切に籠へ入れる。


その瞬間。

どこからか。

きらり。

もう一度、光が見えた。


今度は川の中ではない。

川岸の岩陰。


理永が顔を向ける。


「……?」


小さな光。

それは、ふわりと浮かび上がった。


花の妖精とも。

水の精霊とも違う。


きらきらとした光をまとった、小さな妖精。


理永は目を丸くした。


「……誰?」


妖精は答えない。


ただ。

理永の手の中にある石を見る。


そして。

上流へ飛んでいく。


少し進んでは、振り返る。


まるで。

ついてきて、と言うように。


「……こっち?」


妖精が舞う。


「行っていいの?」


また、舞う。


理永は小さく笑った。


「じゃあ、行こう」


籠を持ち直す。


その後を追って、さらに川を遡っていく。


―――――――――――――――――――


森が、さらに深くなる。


木々の隙間から差し込む光も少なくなっていく。


川は細くなり。


その代わりに、大きな岩が増えてきた。


やがて。


目の前に岩壁が現れた。


高くそびえる岩肌。


その一部が崩れたように開いている。


洞窟だった。


「……ここはなに」


理永が呟く。


宝石の妖精が、その入口へ入っていく。


理永も、恐る恐る後を追った。


中はひんやりとしていた。


水滴が岩肌を伝っている。

ぽた。

ぽた。

静かな音だけが響く。


少し進んだところで。

宝石の妖精が、岩壁の前で止まった。


「……?」


理永が近づく。


岩肌の。

そのさらに奥。

何かが、淡く光っていた。


「……わあー」


近づいて見る。


透明な石。


淡い色をした鉱石。


その周囲には、いくつもの小さな石が埋まっている。


そして。

岩壁の一部が、ほんのりと光っている。


理永がそっと手を伸ばす。


指先が触れた瞬間。


――ぽう。


淡い光が灯った。


理永の瞳が、大きくなる。


「……あったかい」


石から伝わってくる、微かな温度。


まるで。

長い年月をかけて、この場所に溜まった何かが。

静かに息をしているようだった。


宝石の妖精が、その周りを嬉しそうに飛び回る。


理永は、岩壁に顔を近づける。


「川に流れてきたのは……これ?」


妖精が、くるりと回る。


「……そっか、そうなんだね」


理永は小さな瓶を取り出した。


けれど。


岩壁に埋まっているものを無理に取ろうとはしなかった。


代わりに。

足元に落ちていた、小さな石を拾う。


淡く光る。


今まで川で拾っていたものよりも。

少しだけ大きくゴツゴツしていた。


色とりどり、少しだけ綺麗だった。


「……これ、持って帰っていい?」


宝石の妖精が、嬉しそうに舞う。


理永は笑った。


「ありがとう」


小さな石を、そっと籠へ入れる。


洞窟の奥には。

岩壁の中には、まだたくさんの光が眠っていた。


理永は知らない。


それが。

長い年月をかけて自然の魔力を吸収した石だということを。


それが、この世界で。

魔力を宿した天然の石と呼ばれるものだということを。


ただ。

綺麗だった。


だから。

理永は、その光を大切に持ち帰った。


まだ名前も知らない、不思議な石を。

小さな籠の中へ。


ひとつ。

また、ひとつ。


その日から。

理永の小さな家には。

新しい光が増えていった。





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