(12)継承
(視点:少女)
世界が、止まった。
音はない。
風もない。
ただ白い光だけが、静かに自分へ伸びてくる。
不思議だった。
恐怖は、もう消えていた。
青年の群青の瞳は、何も映していない。
憎しみも。
怒りも。
悲しみも。
ただ、一つの処理を遂行するためだけの静かな視線。
少女の視線は、青年ではなく、その向こうで自分を守ろうとする由良へ移る。
(……ああ。)
この気配。
胸の奥が、小さく震える。
――ドクン。
(……この鼓動。)
また、この感覚。
理由は分からない。
それでも。
由良を守りたいという想いだけが、胸の奥で静かに脈打っていた。
「……。」
少女は小さく息を吸う。
由良の叫びが聞こえる。
「やめろ!」
その声だけで十分だった。
この人は、また自分を守ろうとしてくれている。
千年前のことなど知らない。
自分が何を受け継いでいるのかも、まだ知らない。
それでも。
自分へ手を伸ばす由良を見ていると、胸の奥が温かくなった。
(ありがとう。)
声にはならない。
けれど、その想いだけは確かだった。
白い光が、静かに少女へ触れる。
その瞬間。
胸の奥で眠っていた何かが、小さく共鳴した。
――ドクン。
(……この鼓動。)
また、この感覚。
理由は分からない。
それでも。
由良を守りたいという想いだけは、静かに胸の奥で脈打っていた。
その答えへ辿り着くよりも早く。
白い光は少女の身体を静かに包み込んだ。
痛みはなかった。
熱もない。
ただ、自分という存在が、少しずつ世界から切り離されていくような感覚だけが広がっていく。
少女は最後に、もう一度だけ由良を見た。
伸ばされた手。
届かなかった指先。
その姿が、涙が出るほど愛しかった。
少女は、そっと微笑む。
「……大丈夫。」
小さく零れた声は、誰にも届かない。
次の瞬間。
白い光が静かに弾けた。
研究室から、音が消えた。
そして。
少女の身体は、その場へ静かに崩れ落ちた。
由良の伸ばした手は。
最後まで、少女へ届くことはなかった。




