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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第49章|金の火の影
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(3)繰り返された記録

(視点︰ベラトリス)


紙の束は、増え続けている。


机の上に積まれた記録。

整えられた順序。

ずれはない。


だが――


同じ日付の紙が、いくつも重なっていた。


「……」


一枚、手に取る。


『対象:少女

 状態:魔力安定傾向

 変動値:微減』


次の一枚。


『対象:少女

 状態:同上

 変動値:誤差範囲内』


さらにもう一枚。


『対象:少女

 状態:同上

 変動値:再測定』


「……」


ペンを持つ手は止まらない。


同じ観測。

同じ確認。

同じ否定。


再現できない。


あの時の現象に、届かない。


「……足りない」


小さく、呟く。


何が欠けているのかは分かっている。


条件。

環境。


そして――


「……状態」


紙に書き足す。


『精神状態:安定

 外的刺激:軽微

 特異反応:未発生』


そこで止める。

あの時は違った。

あれは、もっと――


「……歪んでいた」


記録には残っていない部分。

測定できなかった領域。

だから、再現できない。


視線を上げる。

部屋の奥。

少女が机に向かっている。


背は伸び、動きは落ち着いている。

無駄がない。


観測しやすい状態。

誤差が少ない。


「……」


それを、確認する。

ただ、それだけ。


ペンを置く。

一瞬だけ、指先が止まる。


机の端。

分けられた紙の束。


――触れていない記録。


理永に関するもの。


「……」


視線だけが向く。

手は伸びない。

必要がない。

今は、まだ。

そう判断している。


だが。

その隣に、別の束がある。


少女の記録。


分厚い。

他のどの記録よりも、多い。


「……」


一枚、無意識に引き抜く。


古い日付。

まだ幼い頃の記録。


『対象:少女

 状態:魔力不安定

 感情変動:大』


紙の端が、わずかに擦れている。

使用頻度が高い。


「……」

さらにめくる。


『対象:少女

 転倒(軽微)

 損傷:なし』


「……」

手が止まる。


記録としては、不要な情報。

観測対象としては、意味が薄い。


それでも――

残っている。


「……」

視線を落とす。

紙を元の位置に戻す。

整える。

ずれはない。


「……同じことを、繰り返さないために」

小さく、呟く。


理由は、それで十分だ。

それ以外は、必要ない。


ペンを取る。

新しい紙。

書く。


『対象:少女

 状態:安定維持

 変動:減衰』


そこで、一瞬だけ止まる。

視線が、わずかに揺れる。


(……違う)

ほんの微細な違和感。

さっきの反応。

紙を見つけた時の、あの揺らぎ。


「……」


書き足す。


『感情反応:上昇(軽微)』


それで、終わり。

それ以上は追わない。

追う必要はない。


視線を外す。

少女は、また記録を取っている。

何も変わらないように見える。

だが。


「……」


ほんのわずかに、精度が落ちている。

揺らぎ。

誤差。

制御のズレ。


それを、確認する。

記録する。

ただ、それだけ。


「……問題ない」

小さく、言葉にする。


安定している。

維持されている。

崩れてはいない。


それでいい。

それ以上は、求めない。


ペンを置く。

静寂が戻る。

何も動かない空間。

何も変わらない時間。


その中で。

記録だけが、増えていく。


削ることも、捨てることもせずに。


ただ――


積み重なり続けていく。


理由は、単純だ。


「……まだ、足りない」

それだけだった。






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