(4)変わらないもの
(視点︰由良)
同じ場所に、座っている。
小屋の中。 変わらない景色。 そして――手の中の箱。
「……」
指先が、自然に触れる。
もう、意識することもない。 触れていることが、当たり前になっている。
それだけで、整う。
呼吸も。 思考も。
すべてが、静かに均される。
箱を、少しだけ握る。
確かめる必要もないのに、 それでも触れる。
そうしていないと、いけない気がする。
理由は、分からない。
分からなくても――困らない。
目を閉じる。
何も浮かばない。 何も思い出さない。
それでいいと思っている。
それが、自然だった。
「……」
ふと、わずかに引っかかる。
ほんの一瞬。
何かが、足りない感覚。
何かを――失くしている感覚。
「……」
思考が、そこへ触れかける。
けれど。
箱に触れている指先が、 それを止める。
静かに。 確実に
それ以上、進まないように。
「……」
息を吐く。
落ち着いている。 何も問題はない。
そう判断する。
「……楽だな」
小さく、零れる。
そう思ったことに、疑問は浮かばなかった。
その言葉に、違和感はない。
むしろ、それが正しいとすら思う。
何も考えない。 何も思い出さない。
それで、崩れないのなら――
それでいい。
立ち上がる。
外へ出る。
風が吹く。 空気が動く。
けれど、何も変わらない。
何も、届かない。
少しだけ歩く。
意味はない。 目的もない。
それでも、体は動く。
やがて、止まる。
振り返らなくても分かる。
戻る場所がある。
小屋へ戻る。
扉を開ける。
中は、変わらない。
同じ位置に座る。
同じ動きで――箱に触れる。
それで、すべてが整う。
目を閉じる。
静かだ。
何も浮かばない。 何も残らない。
ただ――
触れている限り、崩れない。
それだけが、確かなものだった。
「……」
もし、これを手放せば。
どうなるのか――
考えない。
考える必要もない。
その先に、何があるのかも。
知らないままでいいと、思っている。
そうしている限り。
何も失わずに済むから。
何も――思い出さなくて済むから。
静かに、時間が過ぎていく。
変わらないまま。 変わらないことを、選び続けるまま。
気づかないまま。
もう、戻れない位置にいることにも。
それでも。
手だけは、離さなかった。
最初から、そう決まっていたみたいに。
ずっと。
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