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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第19章 卵の欠片

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最後の一杯

酔いどれ伯爵 視点です。

夜。


「やはりドワーフの作る火酒は美味い」


 河魚のフライをツマミに飲む火酒は最高に美味い。陣中で貴重な油を使った料理を出させるぐらいの権力が、この儂。エノテカ伯エチルにはある。


 折角高い金を払いドワーフ部族の住む山脈を越えたのだから、火酒ぐらい仕入れれば良かろうに、若い王子は生真面目すぎる。これも国教に至高神聖神派を据えている弊害やも知れぬ。


 真面目と言えば王国の東の端から呼ばれたアウディ辺境伯も真面目な男だ。王子から与えられた別働隊を率い、雪解けで水量の多い、まだ凍てつく様な冷たい河を渡った。


 無論、儂らも渡ったが厭戦派貴族には不満が出とるし、兵に少なくない死者も出た。報告は少なめにされておるだろうが、最低でも百は死んどるじゃろう。


 そして今朝の緒戦の敗退。一目見てウラヌスの丘の重要性に気がつくアウディ伯には将才があるのじゃろうが、政治的知識が欠けとる。大言壮語だけの子爵の小僧を先鋒大将に任じてしまった。儂らは暗に反対したのだが気づかれなんだ。


 それに、そもそも、この別働隊の意義は奇襲にあった。本隊と向かい合うジナリー軍を側面から叩き、数に勝る我が軍が大勝する為。また凡庸な第一王子を担ぐ貴族らに我らが担ぐ第二王子の才知の煌めきを見せつける為の策。


 どちらにしろ儂が総大将ならば敵に対応された時点で決戦などせず、今夜の内に殿しんがりに一千ばかり残し退却しとる。別働隊の戦略的意義は既に失われとるのじゃから。


「敵に夜襲の気配なし。されど丘にも街道にも既に防御柵等が見えます」


 さもありなん。儂が敵将でもそうして戦う。敵は補給がきくのだから、陣を構えて儂らを釘付けにすれば良い。対してアウディ伯は明日決戦に望むと言う。そして儂に兵二千を持って街道に陣を敷いた敵左翼一千を排除せよとの事だ。アウディ伯は残りの兵でウラヌスの丘を攻略するらしい。


「敵に名の有りそうな将はおるか?紋章官?」


「いえ、千人長の紋は二人共にヒラ近衛騎士。総大将は、ただの宮廷神官旗。強いて言うなら丘の方に有名な傭兵団旗が幾つか見えたぐらいです」


 近くに控えていた紋章官が、淀みなく答えた。良くない。実に良くない。敵将は傭兵らに担がれた平神官。なれば貴族のよしみで軽く一戦し、後は話し合いで手打ちとはなりそうもない。


 さて、火酒は少し控え兵の布陣を考えるとしよう。


☆☆☆


「第一陣、前進。敵と交戦しました」


 近くで護衛の騎士が見れば分かる事を報告した。儂から見て左側の丘では矢戦が始まっているが、高低差の低い方であるこちらの分が悪い。アウディ伯も早々に部隊を前進させ、白兵戦に持ち込む腹じゃろう。


 儂の方は二千の兵を五百づつに分け順に前進させている。一陣が好戦的な貴族の兵。二陣は農民共の兵。参陣は厭戦的貴族の兵。そして儂の率いる本陣。


 街道沿いは兵、五百づつが衝突する広さしかないので、純粋に削り合いが正攻法。下手に誘い込まれ左側の丘から騎兵などで横槍が入っても困る。街道に陣を引いた敵将も、五百兵づつの二軍に分け手堅く防衛陣を張ってきた。



 ウラヌスの丘の方は既に第一陣をが撃退され、第二陣が突撃を始めている。アウディ伯は丘を包囲する様に圧力をかけているが、逆に敵将の一人が寡兵で包囲を破り手早く引き上げた。騎乗大蜥蜴が引き際に火球まで吐き、こちらは大混乱。騎乗大蜥蜴を操る猛将一人に良い様に掻き回されておる。


「正面敵。僅かに後退。当方が押してますが、第一陣は損害多数」


 戦場を舐めとる様な勇敢な貴族達と、その兵の打撃力で儂の方は押したが、決定打には至らない。更に第二陣の農民共主体の部隊は前進が鈍い。第一陣と入れ替わる様に前進しているはずが、戦況は膠着しつつある。


「伝令兵を呼べ」


 しかし、それ以上に丘の方が良くない。包囲の為に配置を薄くし過ぎて百人足らずの猛将を足止め出来ず苦戦しておる。儂は第三陣を街道から丘の攻略へと振り直した。ゆっくりとだか第三陣は進行方向を変える。悪手じゃが、このままではアウディ伯軍が崩壊してしまう。



 朝に始まった戦いは二刻が過ぎて完全に膠着しおった。街道沿いは儂の一千兵と敵の一千兵が衝突しては下がりを繰り返している。ウラヌスの丘でも儂の援軍が功を奏し、アウディ伯が再編した軍と敵軍が膠着しておる。


 遠目に輿に乗った神官が丘の上で、指揮棒を振るうのが見えた。魔王といい輿が流行っておるのか?アウディ伯からは儂の本隊五百兵も丘に差し向ける様に伝令が来たが街道沿いも苦戦と伝え無視している。事実、戦況は五分。アウディ伯の方で負け過ぎじゃ。死体が丘の下に山積みになっておる。


 儂の軍は酒樽に残った最後一杯なのだから、慎重に飲まねばならぬ。


と。


 街道の方から羽音と悲鳴が響いた。やはり、敵も最後の一杯を隠しておったか……。神官の居た辺りから飛びだした魔獣コカトリスが丘を文字通り跳ぶ様に下り横合いから街道沿いの部隊を急襲している。雷鳴も轟いて兵が風に吹かれた麦の様に倒れていく。


 街道沿いの農民兵部隊が崩れた。いかん!儂は自らの部隊を急進させ部隊を支える事にした。



「コケー!!」


 轟音。飛翔。乱舞。


 手がつけられぬ。魔獣とはいえコカトリスが、ここまで効率的に動き、暴れるとは。傭兵に魔獣を運用している者がおり、強烈な最後の一杯として残してあったのだ。


「退却を命じよ」


「伯爵!こちらへ」


 儂が敗戦を決断すると同時に敗走が始まった。だが敵軍も目一杯だったらしく追撃は厳しくなかった。だが翌日、再度冷たい河を渡り集まった兵は二千にも満たなかった。アウディ伯も傷を負い司祭が癒している。


 儂らの負けじゃった。




「[ピヨちゃん]のデータ来ました。この数値はナビゲーターの腕ですね。自立型に落とし込められますかね?」

「コカトリス改に落し込むのも私達の仕事。データ収集は順調……と。」


私の黒歴史がまた1ページ。

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