狂ってる
ニルト視点です。
丘の上からは街道沿いで始まった戦いや、殺気を漲らせ丘を登って来る敵兵が良く見えた。こちらの弓兵が矢を射掛け始め、向こうからも応射があるが高低差の為、戦果は一方的だ。敵兵が次々と射倒される。
俺は伝令兵としてサナの近くに控えていた。この糞ったれな戦場では比較的安全な場所だ。ここに敵兵が押し寄せるぐらいなら、この戦は負け。無論そうなる前に逃げ出す予定だ。命懸けで戦うなんて御免被る。
「囲め!擦り潰せ!」
「さぁ来い!ぶっ殺してやる!」
この丘を囲む様に敵軍は布陣した敵は死ぬのが怖く無いのか?仲間が射殺されても進んで来て、待ち構えていたこちらの傭兵達と衝突した。数は敵の方が倍らしい。
事前に作られた柵や溝に嵌まり、槍で刺される者、振り下ろされた大剣で頭を割られる者。準備された丘の上からの攻撃がこんなに有利だとは知らなかった。逆の立場だったら、逃げ出す間もなく初撃で死んでいる。
「敵軍が兵を拡げ過ぎ薄い。圧力がないから、恐ろしくないのぅ」
サナが傍らのトゥフに、のんびりと語っている。頭がおかしい。敵兵は皆、あんたの首を取りに来てるんだぞ。断末魔の悲鳴や怒号が飛び交っているのが聞こえてないのだろうか?
「デグ様が突撃します」
無口なトゥフが珍しくサナに告げた。見れば大蜥蜴に乗った禿頭が百人ばかりの配下と共に敵に突撃をかけている。敵は背を向けて逃げ出し、首が麦穂の様に刈られている。
「ふむ。流石に突出しすぎよな。伝令兵!下がる様に伝えよ!」
嘘だろ?あそこに行くのかよ?だが命令不服従は問答無用で斬首。俺は丘を駆け下りた。
☆☆☆
「囲め!いずれ名のある将だ。首を取れ!」
俺が前線に着くと、蹴散らされた敵兵が立て直して前進して来ていた。一人の兵が禿頭に後から近づこうとして、大蜥蜴の尾で叩き伏せられている。
「伝令!デグ様!お下がりを」
自分でも信じられない声が出た。
「クソハゲ下がれ!」
と、叫びたかったが、デグの周りで血みどろなのに笑いながら武器を振るう味方傭兵に殺されそうで止めた。なんで、あいつらは笑ってるんだ?殺し合いがそんなに楽しいのか?
「分かった。引くぞ[昇龍]」
と。
[咆哮][火球](使1×2残18)
騎乗大蜥蜴が耳をつんざく咆哮を上げた後、口から火球を吐いた。翔んだ火球は敵兵数名を巻き込み爆発する。違う。禿頭が乗るのは大蜥蜴なんかじゃない。小さいが竜だ。
[火球][火球][火球](使1×3残15)
小地竜が立て続けに火球を吐き、周りは一時的とはいえ火の海になった。大混乱の敵兵を尻目に、禿頭の部隊は悠々と丘を登り自陣に引き返す。もちろん俺は伝令を終えサナの本陣に取って返した。
狂ってる。皆んな狂ってやがる。だから俺は戦場には来たくなかったんだ。
「殺し合いが楽しい訳じゃない」
「俺だって怪我すりゃ痛いし、死ぬのは怖い」
「金の為、喰う為にやってる事さ」
傭兵宿で酒を飲みながら過ごす傭兵達は口々に言う。だが、その内の何人かが、そっと教えてくれた。
「死ぬかも知れない。そのギリギリの淵まで行かないと『生きている』感じがしない」
「そしてその『生きている』感覚を知ったなら、他の快楽なんて屁でもねぇんだよ」
ある旅神官の手記より抜粋
私の黒歴史がまた1ページ。




