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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第19章 卵の欠片

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緒戦 クーリナサイド

アウディ伯爵 視点です

「アウディ閣下。全軍渡河を終えました」


 朝から始めた渡河だったが夕刻になり、やっと終わった。夏には浮橋を使い渡れる河も、春先は流れも速く渡れない。なのでロープを複数渡して強引に渡河した。荷馬車は対岸に置き去り。糧食等の物資は兵に持たせた。


「近くの村の買収は済んだか?」


「はい。薪や酒は定価の倍値で買えるだけ買い。村長にもかねを握らせてます」


 渡河だけで、50人を越える落伍者が出た。途中、ロープの1本が切れたのが痛い。心の臓が止まり亡くなる者や溺れる者、流される者が出たのだ。祈祷出来ない水死者は不死者アンデッド化しやすいと言う。


「偵察兵を出せ」


 明日の朝にならないと全軍は動かせないが、辺りを探る事は出来る。事前情報によれば、対岸のこちらは伯爵領。下手に刺激して兵を出されると身動きが取れなくなる。村を買収したのも、伯爵への報告を遅らせる為だ。


 事態が動いたのは日が暮れてからだった。


☆☆☆


「閣下。ジナリー軍が接近しております。距離は半日。数は約二千。」


「地図を寄越せ!貴族達を集めろ」


 偵察兵の報告を元に書かせた鳥瞰図を開かせ貴族達の集まりを待つ。だが貴族達は、なかなか集まらない。中央貴族は実戦から遠い屑ばかり。渡河も1日ががりだし、これなら自領の兵三百だけで先行し、搔き回した方がマシだったかも知れない。


 四半刻後に、ようやく集まった貴族達は寝入りばなに起こされ不満気だし、中には明らかに赤ら顔の者もいた。


「皆様。夜半にお集まりいただき、かたじけない。偵察兵より報告では、半日先にジナリー軍別働隊が発見された。」


「何と!」


「数は?」


 貴族達に、ざわめきが広がる。これは王子が悪い。ジナリー軍は数に劣るのでロストム橋の近くに全軍縮こまると説明していたからだ。敵も馬鹿ではない。渡河可能性があれば別働隊を作るだろう。


「数は推定二千になります」


 と。空気が弛緩した。屑共め。こちらは敵を蹴散らさねば目的を果たせないのに、向こうは足留めだけで良い。適当な場所に布陣され粘られたら、厄介な事になる。更に向こうは近くの領主からの援軍や補給も期待出来るのだ。


「アウディ卿も人が悪い。半数以下なら、明日蹴散らせばよろしいのでは?」


 赤ら顔の伯爵が貴族達を代表して述べた。酒癖さえ無ければ、家格から彼が大将だっただろう。大半の貴族がそれに頷く。勝手にしろと叫びたくなるのを、何とか抑える。例え王子のお墨付きがあっても、彼らは貴族。一方的に命令するのは得策ではない。


「確かに敵は半数以下。しかし地図をご覧あれ、このウラヌスの丘を抑えられては厄介です」


 拡げた地図には河沿いの街道と、河の側の小さな丘の絵が描かれている。丘に布陣されたなら、その横を通り抜けるのは難しいだろう。


「そこで明日、夜明けと共に丘を抑える兵。千人程を急派したいのですが、先陣の大将に志願したい方はおられますか?無ければ某が……」


「お待ち下さい。名誉ある先陣。このケン・ナセジャにお任せあれ」


 そう声を張り上げる貴族がいた。ナセジャ子爵とか言う若い貴族だ。他の貴族達の顔色を窺うと、肯定的な表情と否定的な表情が半々。だが悲しいかな田舎貴族の私にはその意味は分からない。


「ジナリー軍ごとき、我らクリーナ聖軍の敵ではありません。我々には至高神の御加護があるのですから」


 狂信気味の、この若者に任せても大丈夫なのだろうか?だが他に志願する貴族もいない。それに敵軍が急進しない限り、朝一に進出すれば、距離的には丘は押さえられる。


 先陣を、このナセジャ子爵の一千。中陣を赤ら顔伯爵の二千五百。後陣を私の約一千五百が率いる事を決め、作戦会議はお開きにした。


☆☆☆


朝。


 既に先陣は出立した。対して主力軍は出立に少し遅れが出そうだ。渡河時もそうだが部隊としてのまとまりがない。やむを得ないので、準備の終わった私の軍が先に出立する事を伝えた。赤ら顔していた伯爵が二日酔い。司令官が規律を守れないとは情けない話だ。


 先陣がウラヌスの丘を押さえたら、すかさず防衛陣地を築かねばならない。時間は今回の遠征では敵だ。半刻ばかり進軍を続けると、前方から騒ぎ声が聞こえてきた。


「味方だ!味方がいるぞ!」


「助かった!」


 人をやって調べさせると、どうやらナセジャ子爵の隊と進出してきた敵の先鋒部隊がウラヌスの丘を巡って交戦したらしい。数は敵も一千。地形から丘を抑える必要を認めたのだろう。そして兵が逃げてくる状況からして押し返されたとみていい。


「子爵?子爵はどうした」


「臆病者なら、落馬して死んだ!」


 憤懣遣る方無い感じの騎士が叫ぶ。子爵は敵の勢いに馬首を帰そうとして落馬。そのまま乱戦になり踏み潰されたとの事。子爵の周りの騎士が督戦したが、一度定まった流れは覆らず潰走。先陣の主だった貴族は討たれたそうだ。


 私は逃げてきた兵を再編した。二日酔い伯爵と兵を半々に分けた形になるが不安が残った。大言壮語した子爵は使命を果たせずに死んだ。敵は深追いはして来ずにウラヌスの丘と街道に布陣し我々を待ち構えている。


 明日には雌雄を決する事になろう。



河。川沿いに街道。半日先にウラヌスの丘。丘の横は森。

偵察兵の報告から利用可能な鳥瞰図書けるのは訓練。

兵を当てはめられるのは貴族として受けた教育と将才です。


私の黒歴史がまた1ページ。

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