別働隊
ニルト視点です。
隠し金だった銀1枚も取り崩し、懐には銅20枚。だが久しぶりのドワーフの火酒は旨かった。天幕で二刻ばかりは寝ただろうか?あれから朝、王都の門が開くまで飲んでいたので、酔いが抜けてない。
「博打は駄目だった様だな。兄ちゃん」
「あぁ。昨夜は運がなかった」
同じく酒臭い傭兵のオヤジと壺に溜められた水で顔を洗い、口をそそいだ。そう、運がなかった。実力以上の相手と勝負する事になったのだから。これから行く戦場もそうだ。俺の実力に合った敵兵が出てくる訳じゃない。
「出陣は昼の鐘だぜ。後、一刻ぐらいだが、その前に部隊分けがあるそうだ」
「部隊分け?女王親征の本隊として北に行くって聞いてたが?」
雇い主のハゲが理解してなかったのだろうか?確かにオーガみたいな形はしていたが、頭はゴブリン並みでも不思議じゃねぇ。ハゲは、いけ好かないサナの言いなりだからだ。
と。
「女王陛下。御来場!御来場!整列せよ!」
高そうな格好をした兵が、触れてまわり始めた。天幕の片付けとか含めても半刻あれば済むのに、女王はガキだからか気が早い。周りの大人の都合など気にしてないんだろう。
「チ、!。これだから貴族って奴は」
傭兵オヤジも悪態をついた。時と場合によっちゃ不敬罪で首が飛びかねない。それは明らかに遅刻してもだ。整列は急がねばならない。
それから四半刻後、俺らは整列したが、ハゲもサナもリキタ領から移動した部隊の天幕には現れなかった。
☆☆☆
「大地母神官サナを、女王陛下の名においで別働隊指揮官に任じる」
聖女グレーテが王命を読み上げた。少し低い美しい声。どこかで聞いた声だが思い出せない。似た声の主は酒場の姉ちゃんか誰かかも知れないが、まだ酒の残る頭には浮かんでこない。
「そして聖戦士デグ。至高神の信徒エレヒト。貴殿らを近衛騎士に任じ千人長とする。サナを補佐せよ」
俺を百叩きの時に散々叩いたクソ野郎とハゲが千人長に任命された。女王の前に進み出て頭を垂れている。そしてトゥフに付き添われたサナが女王から短い杖を受け取った。近くにはスケルトンウォリアーと輿が用意されている。
美しいが青白い顔。神官服から僅かに透ける体型は細く、深刻な病を抱えているのは明らかだ。だがサナは良く通る声を張り上げた。
「我らは本隊より離れ、敵別働隊に備える。これより読み上げる百人長は四半刻後迄に部隊をまとめよ!」
俺はサナの別働部隊に入れられるだろう。しかもハゲに近い配属は必須。ハゲは陣で指揮を執るタイプじゃない。先陣をきって戦うタイプの指揮官だ。それが別働隊となれば必ず接敵する。
最悪だ。
「運がなかったな兄ちゃん」
隣の傭兵オヤジは本隊付きらしい。傭兵だから本陣付きとはならないが、睨み合いだけで済む可能性も残っているそうだ。ハゲとクソ野郎が景気づけの鬨の声をあげる。俺は、そう言うノリは大嫌いだが、反発する程の青二才ではない。ヤケクソに叫ぶ。
「女王陛下万歳!!」
別働隊は本隊より先に出るらしく、周りは慌ただしくなった。馬車に畳んだ天幕を積み込んでゆく。輿に乗ったサナ将軍に率いられ別働隊二千は北に向かい出陣した。
☆☆☆
「この書は伝令兵に渡せ。先の村に食料の供出させねばならん」
「同行の酒保商人を呼べ。これは高すぎる」
俺が配属されたのは予想に反してハゲの近くではなく、サナの近くだった。どうやら字が読めて、計算が出来る兵をサナは近くに置いているらしい。俺は兄貴達のおこぼれで文字、計算は学んでいた。だが魔力は無く、神力も凡人な俺に、それ以上は望めない。
それでも半月骨牌は計算が出来ない奴には手が出せない博打だし、女将さんから確率という奥義も学んだ。生き延びたなら王都の骨牌屋で、また働く事になるだろう。積み重ねが必要な商人は俺には無理だ。
サナは輿に揺られている時も、夜営で天幕内に有る時も、ひっきりなしに指示を飛ばしている。エレヒトとか言うクソ野郎とハゲの隊は1日毎に前後を入れ替えて行軍しているが、見習いを含んでも数少ない神官、司祭達、直掩兼兵站部隊はサナの居る部隊中央に位置取り変わりはない。ちなみに酒保商人や夜鷹達は部隊の後をついてきている。
「サナ将軍はいつ眠り、いつ食事をしているんだ?」
クロスとか言うサナ直掩兼兵站部隊の百人長に訊ねてられた事があるが、俺もサナの休む姿は見た事がない。夜はトゥフと同じ天幕内で休むはずだが、トゥフが休んでいる間はマレーネとか言うハーフダークエルフが補佐をしていて、本陣の灯りが絶えないのだ。
本隊との伝令兵、先行している偵察兵からの報告から敵軍は国境の山脈を越えた。今は国境にある風見鶏男爵領に集結しつつあるそうだ。遠からず敵軍は川沿いを流れに沿って南西に進軍する。
だが、もし男爵領から南下して無理に渡河して来る様なら、俺ら別働隊はそれを防がねばならない。あの時、夜啼鳥の胸に気を取られなければ……。
まったくもってクソみたいな話だ。
風見鶏男爵領。
もちろん家名が風見鶏なのではなく、国境で立場をすぐ変える態度からついた蔑称。
私の黒歴史がまた1ページ。




