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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第19章 卵の欠片

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女王陛下

視点デグです。

 聖女グレーテからの呼び出し。移動する部隊から離れ、騎乗大蜥蜴を速脚にさせた。サナは部隊から離れた後、胴体スケルトンウォリアーを収納して飛び、トゥフは小走りをしている。


「デグよ。そなたの仕えし聖女はレイカ殿ではなかったか?」


「そう。レイカ様だ」


 グレーテは元はリキタ伯爵の侍女。レイカ様との交流で啓示は得たが、聖女なのは変装した見た目だけ。大地母神殿の扱いは下級神官で宮廷神官。リキタ神殿の陰口かげぐちでは[名ばかり聖女]と呼ばれていた。


 自分が、そう伝えるとサナは笑った。そしてトゥフを見て残念そうに呟く。


「レイカ殿に会えばトゥフも啓示を得たかも知れぬの。[名ばかり聖女]でも啓示を得たのだろう?」


「だろうな。レイカ様は本物の聖女だ」


 自分は確信を持って告げる。無料診断日の翌日に50 人からの見習いが啓示を受けた奇跡もあった。船乗りの語る噂には、重い病も聖女レイカ様の居るハルピアに行けば治るという話まであるという。


「そういえば、ケリー殿も神官志望者が増えたと話していたのう」


 そんな話をしている間に王都の城門が見えてきた。サナは改めて人型に偽装する。城門で召喚状を見せると、荷を置く間もなく、そのまま王城まで案内された。


☆☆☆


 王城で案内されたのは、王族の住居のある城の奥だった。前に[竜の卵]として城に呼ばれた時は公務で使う[謁見の間]などがある手前までだったから、グレーテは出世したのだろう。


 待つ様に言われ、大きなテーブルのある小部屋で座っていると、奥から一人の少女がグレーテを連れて入ってきた。共に侍女が入って来て目の前に高そうな茶器を置き茶を入れた。


「グレーテ。顔見知りでも、客人には茶ぐらいは出すものだよ」


「申し訳ございません。陛下」


 自分と共に来たサナとトゥフは壁際に立ったまま控えていたが、サナは膝を折って貴族の礼をした。上手く偽装出来ていると感心したが、小声で指摘される。


「デグよ。貴人が入室したら、立ち上がって礼をせぬか」


 自分は慌てて立ち上がり礼をし、トゥフは膝をついて頭を下げている。茶を入れた侍女は侮蔑した様な視線を投げて去った。自分が下級騎士などと持ち上げられても、タダの平民だと実感させられる。


「礼など、気にしなくていい。それにグレーテ。君も下がれ」


 少女がグレーテに退室を命じた。世事に疎い自分でも分かる。この少女がジナリー王国の女王。サーシャ陛下なのだろう。ただ呼びつけられた理由は分からない。


「グレーテ。出陣は明日の昼。いつも通り真夜中の鐘で切り上げておいで」


 サーシャ女王陛下に促されグレーテは頭を下げ、部屋から去った。部屋には女王陛下と自分とサナとトゥフだけ。呼べば警護兵が駆けつけるだろうが、不用心に過ぎないだろうか?自分は武装解除さえされておらず、愛用の戦斧はすぐ傍らにある。


「さて、デグ殿。まずは()()()()()()を教えてくれないだろうか?」


「その事なれば、女王陛下。我から、お話しましょう。我こそが腐臭のぬしたる不死者アンデッドなれば」


 なるほど、下級神官のグレーテを下げた理由は分かった。ケリー殿を始め寛容な方ばかりだったのでマヒしていたが、不死者アンデッドなど連れていたなら、神官、司祭は普通なら襲いかかってくるだろう。


 茶殻から女王陛下は天啓持ちと聞いていたので、サナの正体を見破られた事に驚きはない。だが普通なら不死者アンデッドを前にしたら、兵を呼び集めるはずだ。それが逆に人払いをするとは、女王陛下も変わり者であるに違いない。


☆☆☆


「なるほど。サナは、このいくさは負けないと言うんだね」


「いかにも。御身が誤って首を落とされぬ限り、負けはしませぬ」


「その言葉。信じても良いのかい?」


「御疑いなら首を賭けても、構いませぬが?」


「ふふ。サナは既に首だけではないか」


 サーシャ女王とサナが共に笑った。最初、生前は聖王国に居たなどと身の上話していたサナだが、いつしか話題はいくさの話になり、自分も聞いた決戦しない決戦論(※)の話になった。


 陛下が自分を呼んだのは半分の兵力で勝てるかを尋ねる為だったそうだが自分にはいくさなど分からない。サナが居て本当に良かった。


「しかし、サナ。敵は本当に軍を分けたりはしないのかい?」


「懸念はございます。この上流にある男爵領の南。夏ならば渡河出来るとの事。雪解けの今でも無理を通さば可能かと」


「先程。王子同士は互いに牽制して動けないと聞いたけど」


「敵にも目端の効く将の、ひとりふたりは居りましょう」


 少年の様な口調の女王陛下と、元貴族のサナは鳥瞰図という地図を拡げ木の駒を動かしている。実際駒を動かすのトゥフなので、何もせずに座っているのは自分だけだ。


「こちらも信頼出来る将に二千も兵を預ければ、抑えは充分。本体の横腹が守れれば良いのです」


「残念だけど、私に自由になる将は居ない。先行したリキタ伯に、おうかがいするしか……いや待て。君なら……」


「我は、これなる下級騎士デグの従神官。将とするならデグになりましょう」


 話の雲行きが怪しくなってきた。自分には兵を動かす事など出来ないのだが。


「いや。グレーテに命じて、サナを将とする。デグ殿と、もう1人を近衛騎士に任じ千人長としてつける。風見鶏男爵領に向かってくれ」


「かしこまりました。陛下。ただ輿こし人足スケルトンウォリアー用の囚人を何人かお願いしたい」


 サーシャ女王陛下は鷹揚に頷いた。都市での平民の囚人は重罪なら斬首だが、そうでなければ犯罪奴隷化されるのが一般的なので、ゴーレムの材料とされる不運な囚人には同情を禁じ得ない。


 トゥフが恐ろしそうに陛下とサナを見ていた。


(※)渡河出来る橋の前に陣を構え、防御主体に戦う作戦の事。リキタ伯(国王代行)も同じ作戦を考えているが、幼いサーシャを旗印にしか考えておらず説明していなかった。



私の黒歴史がまた1ページ。

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