屑
お待たせしました。
ニルト視点です。
俺は確信していた。晒し札は0。今しがた明かした、手持ち札も0。そして偶然に紅で[ガン付]された場の伏せ札も0。半月骨牌の最高の役[満月]は5倍役。銀6枚が30枚になる。これで俺は戦場に行かずに済む。
「惜しかったですね」
夜啼鳥の少し低い声が響いた。明けた場札は「1」
「0」ではなかった。
馬鹿な!確かに紅のついた[ガン札]だったはず。俺は場札の「1」を手に取った。裏返すが紅はついていない!
と。
夜啼鳥が手札を明かした。「0」だった。
やられた!木札の[すり替え]とは……。この女の技は[ガン付]だけじゃなかった。夜啼鳥は俺の技を返して寄越したのだ。恐らくは、胸元を開けたあの一瞬の隙に。
クソ。色香に迷って勝負への気が逸れた。全く持って、俺って奴は……。
俺の手は1。夜啼鳥の手は5。勝負は夜啼鳥の勝ちだ。明確な証拠を示し、証明しない限り、イカサマを叫んだところで勝負は覆らない。半月骨牌の賭場は、そういう場所だ。
「終了です」
夜啼鳥は、そう告げると場の銅貨を銀貨に両替させた。しょぼくれ爺さんが、手際良く変えた銀貨と残りの銅貨を小袋に入れ、わざわざ手渡す。
俺は夜啼鳥が飛び去るのを呆然と眺めていた……。
☆☆☆
「おい。勝負しないなら出ていきな」
ソバカス兄ちゃんではない店員が声をかけてきた。がっしりした体格。用心棒も兼ねているのだろう。現金勝負の賭場では負けて強盗に早変わりする奴もいる。他人の金を覗う奴もいる。シーフギルドが、ひと手間かけてチップで賭けをさせるのはその為だとも、言われている。
俺は席を立った。俺には強盗に変われる力も盗賊に変われる技もない。あるのは半月骨牌でのイカサマ技だけ。それが通じず敗れたなら、黙って去るぐらいの矜持はある。
「兄さん。待ちなよ。忘れもんだ」
俺は店を出た。どうしようかと思っていると、しょぼくれ爺さんに呼び止められる。店に忘れる様な物などないはずだ。
「[おのぼり]の兄さん。この裏通りの先の路地に銅貨2枚で酔える店がある。そこなら街の門が開く迄居られるさ。隠し金ぐらいあるだろう?」
「俺に情けをかけに来たのか?」
「あんた以前、南街の骨牌屋にいただろう?手入れに遭って潰れた店にさ。あんたは[おのぼり]じゃない[玄人]だ」
女将さんに世話になっていた賭場は確かに南街にあった。しょぼくれ爺さんは同業の繋がりで知っていたのだろう。覚えちゃいないが、俺も爺さんを見た事ぐらいはあったのかも知れない。
「戦が終わって気が向いたなら、訪ねてきな。今、大負けしているソバカスよりは使えそうだ」
俺は黙って言われた路地に向かった。悔しさが込み上げてきたが、どのみち朝まで街からは出られない。まだ夜は冷えるし、衛兵に見咎められても面倒だ。
クソ。こんな夜は飲むしかない。
イカサマを咎められ、フード付きシーフに刺される展開も少しだけ考えました。
が、夜啼鳥もイカサマしてますし……。
私の黒歴史がまた1ページ。




