満月
ニルト視点です。
「場代。頂きました。良い勝負を!」
ソバカス兄ちゃんが、決まり文句を明るく叫ぶ。ほぼ同時に深夜の鐘が鳴った。すると、夜啼鳥が微かに溜息をつき……告げる。
「この10戦で終了します」
と。
「負けだ!負けだ!この女が!」
怒声を発して傭兵風の男が卓を立った。いや装備からみて冒険者かもしれない。卓にはフードを被り布で顔を隠した盗賊風の女。いや、こちらは本職だろう。隠していないのは目ぐらいだ。俺が店に入った直後に来店して勝負をしている。怒声を無視するのは賢明だ。
「またのご来店を」
「二度と来ねえからな!」
男は店員の挨拶を無視し、捨て台詞を吐いて店を出ていったが、死なない限り、ああいう輩はまた必ず店に来る。飲む、打つ、買うの魅力に抗える奴は少ない。俺もそうだが冒険者や傭兵の屑なら尚更だ。
深夜の鐘と共に席を立つ客が増えている。ソバカス兄ちゃんにも声がかかった。店員の仕事は雑用と卓を見てるだけじゃない。卓が割れたらなら対戦相手として入らねばならない。
フードの女と目が合った。ソバカス兄ちゃんが卓に入る準備をしている。店の中にも護衛がいた様だ。俺が[三日月]をくらった時、錯乱していたなら短剣が飛んで来ていただろう。
☆☆☆
「ッ!降りだ。」
俺は舌打ちと共に夜啼鳥に告げた。銅1枚を払う。運も下降気味で種銭は銀6枚に戻りつつある。だが焦りはない。やり取りの内に[ガン札]が、だいたい掴めたからだ。3.8.9には3枚共、それぞれ分かる様に紅が付いていた。後は先の1枚だけ紅がついた0札。紅の付き方からして0札はイレギュラーだろう。
俺は待った。技を仕掛けるには親になるのが必要だからだ。そして残り3戦になり、ようやく親を取れた。仕掛ける最後のチャンス。場の晒し札は3。そして伏せ札は紅の付いた0。俺の手札は0が2枚。もちろん偶然じゃない。
札を混ぜる時、必要な木札を掌に隠す[隠し札]。そして相手に決まった札を渡す[送り込み]どちらも得意ではないが、俺に出来る精一杯の技だ。ソバカス兄ちゃんが近くに居たらバレバレだから出来ない。
夜啼鳥は2の札を晒した。俺の晒し札は0。役の[満月]が難しいのは、この晒し札があるからだ。0を晒した時点で満月を宣言した様なもの。確率からブラフが大半だが、相手は危険だと思えば降りれば良い。
「だから相手にも役を送り込み、こちらはブラフを装う。簡単な仕掛けじゃないさ」
頭の中に女将さんの声が蘇る。夜啼鳥の手には1の札があるはずだ。後は、すでに完成した[一二三]の役を捨てて降りるのを躊躇わせれば良い。
「俺は伏せ札を選ぶ。賭け金はオールだ」
虚勢を張るように声を上げ賭け金が入ったボウルを押し出す。伏せ札さえ0なら月が満ち[満月]の役が揃う。ブラフで相手を降ろす様に振舞い、逆に勝負を誘う演技。
「本気ですか?」
「本気だ。銀6枚はあるはずだ」
ほとんど無言だった夜啼鳥が低い声で訊ねてきた。間髪入れず俺は答える。正真正銘の勝負どころ。負ければ戦に駆り出され、戦場の露と消えても不思議じゃない。無表情だった夜啼鳥が微笑みを浮かべた。
「暑いですね」
夜啼鳥は呟き札を持たない右手で胸元を開いた。豊かな谷間が微かに見える。クソ。貴族は、こんな女を妾にし啼かせる事が出来るってのに。俺は銀30枚に命を張っている。
「では、こちらも銀貨6枚。いや端数あるので7枚にしましょうか。勝負です」
夜啼鳥は勝負に乗ってきた。俺は手に持った0札を晒し、伏せ札を開いた。
後半は十分後に投稿予定です。
私の黒歴史がまた1ページ。




