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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第19章 卵の欠片

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紅(べに)

ニルト視点です。

「う~ん。マドウ、この物語の主人公って……」

(今更だろう)

 俺は思わず立ち上がった。ソバカス兄ちゃんが卓横で焦った顔をしている。こういう賭場では酷く負けた方が暴力沙汰を起こす事があるからだ。


「追加で銀貨6枚です」


 座ったまま落ち着いた表情で夜啼鳥ナイチンゲールが告げる。俺は席に座り直して、ボウルから銀6枚を取り渡した。クソ。晒し札が3の時点で警戒すべきだった。熱くなり、集中を欠いていたのは俺の方だ。


 ボウルの銀は約7枚。ほぼ振り出しに戻った。そろそろ深夜の鐘が鳴る。朝までに銀30を得なければ、兵として戦場に連れていかれる。戦場では兵など使い減りする塊として扱われ、いつ死んでもおかしくない。


 では、逃げるか?隠れるか?


 逃げるのは条件が厳しい。夜のうちに王都を出る必要があり、出られてもメシも武器もない1人旅ではゴブリンが出ただけで詰む。隠れるのは更に厳しい。サナが借用書を傭兵ギルドに流せば終わりだ。その債権が、どこに流れても酷いが王都でギルドから隠れるのは難しい。


「続けますか?」


 半ば以上放心している俺に夜啼鳥が声をかけてきた。確か10戦の半ばだから、全部降りると宣言すれば、銅5枚で辞められる。戦場に行っても必ず死ぬ訳じゃない。だが……。


「あぁ、続行だ」


「だが、ちょっと待ってくれ。ジジイ、便所は何処だ?」


 俺はボウルを持って席を立った。一度小袋にかねを戻すが、銀1枚だけボウルに残す。完全にボウルを空にして席を立つと、勝負を辞めたと言われる。ここらへんは慣習と信用だ。


「何が田舎者おのぼりじゃ。賭場の流儀を知ってるじゃないか。儂が座っといてやるから、ソバカス、案内してやりなさい」


 ソバカス兄ちゃんは店でも、ソバカスと呼ばれているらしい。しょぼくれ爺さんが気味の悪い笑みを浮かべて、夜啼鳥の前に座った。便所は店の外にあるらしい。


「何か飲むかね?」


 夜啼鳥は爺さんの声掛けを、あしらいながらボウルの貨幣を数えていた。


☆☆☆


 外の空気を吸うと、少し頭が冷えた。冬は終わったが夜は冷える。便所は裏通りにあるそうだが、先導するソバカス兄ちゃんが表通りの方を指さす。


「あれが夜啼鳥ナイチンゲールの馬車ですよ」


 俺は舌打ちした。小さな馬車だが槍を持った護衛付き、更に近くに騎馬が一騎。こっちはかねが作れなきゃ戦場送り、あのあまは遊びがねで遊んでいるだけ。


「どこの貴族だ?」


「オーナーが一度、シーフに尾行つけさせたんですが、王城に入って行ったらしいんですよ」


 王都には貴族の別邸がいくつもある。護衛に騎馬付きとなると、どこぞの貴族かと思ったが王城となると、上位貴族の愛妾か?


「よく来るのか?」


「冬になってからは月に一度」


 転生者とやらが広めた肥料回収、公衆衛生とか言う教えから、王都には下水につながる便所が作られている。肥料については村でも糞運びを手伝わされた。村に居たなら兄の顔色を窺いながら、糞運びを一生続けるハメになっただろう。


 ソバカス兄ちゃんと連れションを終えて店に戻る頃には、気分は十分落ち着いていた。夜啼鳥は深夜の鐘が鳴ると帰り支度を始めるという。残された時間は少ない。だが諦めるには早い。


「早い糞じゃったな」


「どきな、爺さん。場代払っているうちは俺の席だ」


 しょぼくれ爺さんが名残り惜しそうに席を立った。ボウルに再びかねを注ぐ。卓は手を触れられてなくそのまま。


 と。


 俺は気がついた。俺の戻した山の0札に薄っすらと紅い点がついている。クソ。全てが繋がった。このあまは[ガン札]の玄人だ。昔、俺が世話になっていた女将さんの店にも[ガン札]野郎が1人いた。


☆☆☆


 女将さんの店では俺みたいな半端者が何人か世話になってたが、新入り程、立場が低く雑用を押し付けられる。そいつはスラム上りで、最初は半月骨牌に必須の計算も怪しかった。


 俺らはバカにし、木札洗いを全て押し付けたり、計算の訓練と称して使いパシリをさせていたぐらいだ。だが、そいつは日に一度メシ食えるだけで酷く感謝し、懸命に働いていた。


 そしてある日、大負けした俺の代わりに卓に入り大勝して見せた。それから奴は勝つべき時に勝ち、負けるべき時に負ける玄人に化けたのだ。仲間うちでパシリに使う奴はいなくなったが、そいつは木札洗いは必ずやっていた。


 俺と女将さんが理由を聞くと、木札を洗う間に傷や欠けを覚えているのだと言う。店で使われる木札の全てとは言わないが、半分ぐらいの札は透けて見えてるのと変わらないと。


 そいつはすぐに店をクビになり、女将さんの伝手で行商人の養子になり去った。「積み重ねが出来る子は、こんな場所に居ちゃいけない。この店には勿体ないよ」女将さんはそう言っていた。


☆☆☆


 化粧紅での[ガンづけ]。証拠はあっても証明は難しい。たまたま付いたと言われたら、それ以上の追求は出来ないからだ。今のタイミングなら、ソバカス兄ちゃんに札交換を頼めば交換してくれるだろう。


 しかし、それで続行しても夜啼鳥が帰るまでに銀30は稼げない。イカサマ無しの平手でも、このあまは互角の勝負が出来る腕はある。最初の不慣れな札さばきは、ただの芝居だ。ならば逆に[ガン札]に気がついてないフリをして大勝負を仕掛ける。


 俺は残り5戦をガン札の見極めに使った。時間的にも次の10戦中が勝負だ。積み重ねの出来ない屑でも出来る勝負はある。


用語解説

[ガンづけ]木札に印をつける事。

[ガン札]印や傷、特徴のある木札。

上記を覚える事で裏返った札の数字を一方的に知る事が出来る為、半分骨牌では有利に働く。

[ガンづけ]はイカサマではあるが、ガン札を覚える事は技術とも言える。

証拠はあっても、証明は難しい。


私の黒歴史がまた1ページ。

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