夜啼鳥
視点ニルトです。
銀貨1枚は銅貨30枚
歯並びの悪いデブはザコだった。確率が分かっておらず、運だけで勝負するタイプだったからだ。基本に忠実に強い手なら銅貨を乗せ、弱い手なら降りるを繰り返すと3回目の場代まで保たなかった。臆病者だの〇〇無し野郎だの、口汚い口撃はあったが、俺は完全に無視した。
次の対戦相手は役人風の男だった。恐らくは本当に役人で仕事終わりの気晴らしなんだろう。戦ともなれば、色々な物を集め、動かさなきゃならんだろうが、お貴族様は命じるだけだ。
こいつは基本に忠実だったが、賭け方が臆病だった。ハッタリで銅貨を乗せると、余程の好手じゃなきゃ降りる。一刻程かかったが役人風も、そこそこの銅貨を置いて帰った。
ボウルの中は銅貨ばかりだったが、総額で銀貨10枚を越えていた。銀貨6枚スタートだったから流れは悪くない。だが夕飯を食わずに居たのでボウルから銅貨を数枚払い賭場の隅で食事をした。
頼まれてメシを買ってくるのも、賭場の店員の仕事だ。この時、渡す銅貨を少し多めにしてやると、トラブルで裁定になっても役に立つ。
全身の痛みは随分マシになった。村を出た翌日は発熱して、再び動けなくなったぐらいだ。そしてサナに何とかしてくれと頼むと、治癒魔法なら銀10、解熱薬なら銀1枚と言われて解熱薬を買った。さらに痛み止めに銀1枚必要だった。
結局種銭に出来たのは銀6枚。1枚は隠し持ち、1枚は酒保商人から買ったメシに消えた。雇い主のハゲはメシは食うが移動中は酒はやらず、トゥフは金がない。そしてサナは飲み食いしているのを見た事がない。俺も種銭を残す為に酒は控えた。
メシは体の回復に必要だから、少し良い物を食えとサナに言われ、金を使った。誰も酒を飲まないからか、他の連中からはハゲの所は変わっていると陰口叩かれたが、ハゲもサナも気にしていない。
サナは、いけ好かないが、神官としての腕は確かで俺以外にも体調崩した奴の治療をした。神官は本来は診察だけでも銀がかかる。が、移動中は只だったので夕飯時に訪ねてくる奴は多かった。治癒魔法や薬には金を取ったが。
メシを食い終わり、次の勝負を求め席を取ると店に居た奴は乗ってこない。俺が田舎者の幸運野郎じゃないとバレてしまったからだ。
河岸を変えるか店員相手に勝負するかと考えていると、そいつは現れた。
☆☆☆
「卓は空いてますか?」
そいつは美しい女だった。シンプルな服装ではあったが、清楚とは懸け離れた女を感じさせる姿。豊かな胸にくびれた腰、整った化粧に少し低い声。
顔立ちも美しく、久しく女を抱いてないと意識させられる怪しげな魅力。だがこんな場末の賭場に一人で現れるのは、どう考えても堅気じゃない。
冒険者とはかけ離れている。夜鷹と呼ばれる下級娼婦にしては服の生地が良い。何より全身から漂うレベルが高い。恐らくはパトロンが付いている高級娼婦あたりだろう。外に馬車と護衛を待たせていても驚かない。
「自称[おのぼり]の卓で良ければ、あるよ」
「ありがとう」
女に尋ねられた、しょぼくれジジイが俺の方を指差しながらニヤつく。女は俺の前の席に座った。微かに香水の香りがする。安物の匂いじゃない上品な香り。やはり只者ではないが、金は持ってそうだ。
場代の銅貨を丁寧に手渡されたソバカス兄ちゃんが顔を赤くしている。俺は銅貨を弾いて渡した。男の手を握る趣味はない。
「場代。頂きました。良い勝負を!」
「お手数ですが、両替を。後、札を交換してください。」
「すぐ用意します。お待ち下さい」
女は銀貨3枚を銅貨に両替し、さらに20枚近い銀貨をボウルに入れた。それでも財布らしき皮袋の半分だ。種銭は、その胸と同じく豊かな様だ。出陣は明日の昼。豊かなそれを一晩以内に掠め取れば俺は自由になれる。
「お嬢ちゃん。そんなに銀貨出して、大丈夫なのかい?」
「失って痛いぐらいでないと、賭けはつまらない。後、夜啼鳥。夜に啼くのでそう呼ばれてます。」
俺の問いにそう囁く様に答え、微笑む。クソ。この女が、どんな声で啼くのか?想像しただけで股間にきやがる。女が木札を引いた。6だ。対して俺の木札は4。女の、夜啼鳥の親で勝負はスタートした。
☆☆☆
夜啼鳥との勝負は最初は退屈だった。テンポが悪く、賭け方も運頼み。決断を迷い、口紅で赤い唇に指を当て考え込む事も暫し。だが銀貨の増えるボウルを眺めながら、その戸惑う姿を見ているのは悪く無かった。
が。
しばらくして流れが変わった。コツをつかんだのか、まず決断が早くなり、無理な勝負をしなくなった。ブラフを使い、賭け金で押してくる事も始めた。そうなると勝負は白熱してくる。クソ。余裕があれば楽しめるのだが、俺には時間がない。朝までに銀30が必要で、今ボウルにある銀は16ぐらい。タイミングを見て、俺は勝負を仕掛けねばならない。
☆
俺の親番。来た手は4と5で迷わず5を晒した。夜啼鳥の晒し札は3。場の晒し札は6。
俺は4の札を捨て、山を少し崩しつつ変え札を2枚引いた。もちろんイカサマで、技名は[二枚引き]とそのまま。掌の中で素早く確認した木札は0と8。平手なら0札の引きだったのでヤバかった。崩れた山を直しながら0を戻す。
リスクがある割に確実性に欠ける[二枚引き]が俺の得意とするイカサマ技。決定力がない代わりに勝ち負けが自然だ。これで手は5+8で13。場は6か伏せ札だが、親の俺が選べる。0〜9で6を上回るのは7・8・9の3枚しかない。夜啼鳥の晒し札は3。ここは空いている6札を選べば19。
イカサマはタイミング。徐々に賭け金を吊り上げ羽根を毟る為の第一歩。俺は夜啼鳥を見た。夜啼鳥もこちらを見ていた。無表情。だが、わずかながら上気した顔。内心を隠しきれてない。何とも言えない色気を感じる。冷静に見えて向こうも熱くなってる。やはり、ここから勝負だ。
夜啼鳥は俺の戻した0札に迷う様に指先だけ触れた。だが札は変えず、俺に場札を選ぶ様に促した。
「晒しの6を。銀2枚」
「銀貨3枚」
「……では3枚だ。」
札を選び賭け金を告げた。夜啼鳥が俺を降ろそうと金額を増す。もちろん降りる気はないが、大金に迷ったフリはする。勝負が過熱していると見たのか、近くで雑用をしていたソバカス兄ちゃんが足を止めた。普段なら省略する掛け声を俺も夜啼鳥も発した。
「「月はどちらに出ている?」」
持ち札を明けた俺の点数は19点。対して夜啼鳥の明け札は3。まさか!だが微笑みながら捲った場札も当たり前の様に3。
「三日月です」
夜啼鳥が告げた。
場代は対戦者それぞれが払い、この店は銅貨1枚で10勝負出来ます。
私の黒歴史がまた1ページ。




