↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第19章 卵の欠片

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

398/412

屑の歩み

デグ視点です。

 盗人の正体は村長の息子だった。とはいえ、五男ともなれば継ぐ物はおろか居場所もない。そこで数年前[おのぼり冒険者]としてジナリー王都に出たが挫折。村に戻って来ていたという。


 そして最近は村長の脛をかじりながら、行商人や冒険者相手の賭博に明け暮れていたらしい。王都ではシーフギルドに出入りしていたとも話したが、扱いは使い捨ての三下チンピラだったそうだ。


「赦してくれ、助けてくれ」


 天幕の張られた村の広場の片隅で、縛られたまま木の棒で殴られ、水をかけられる男を兵や村人が眺めている。村長が息子に下した罰は百叩きの後、村外への追放。


 実害が無かったとはいえ、被害者の代表たる騎士様に罰を任せたなら、絞首刑もあり得ただろう。騎士様は誇りを気にして、酷く怒っていた。百叩きと追放は肉親ゆえの温情ある罰だ。そして公開での罪人の処罰は村人への戒めであり娯楽でもある。


 骨の折れる音がした。叩いていた従者が手加減を誤ったのだろう。悲鳴を上げ気を失った男に水をかける。春になったとはいえ夜は冷え水は冷たい。苦痛の声と共に男は目覚めた。


「百叩きまで、まだ半分だ」


「ゆ、赦してくれ、死んじまう」


 そんなやり取りが従者と男で、かわされている。百叩きは一応、死罪ではないので殺さない様に叩く。だが加減を誤り死んでしまう事はあるし、その時の怪我が元で死ぬ場合もある。


「喋れるなら、まだまだ余裕がある。棒をよこせ!俺が叩く」


 近くにいた下級騎士が従者から、棒をひったくった。そして従者に数を数えさせながら、力任せに叩いてゆく。殺さない様に叩くから、死んでも構わない様に叩くに変わった。


 その後十回ぐらいは悲鳴を上げていた男が呻き声しか出さなくなった。だが気を失うと従者が水をかけ意識を戻す。肉が爆ぜ、骨が軋む音が響く。働かずに遊んでいた村の厄介者の末路がそこにあった。


☆☆☆


「デグよ。盗人の名を知っておるか?」


 自分は首を横に振る。百叩きが終わり縄を解かれた男が地面に、うつ伏せに横たわっていた。微かに呻き声をあげるだけで喋れる様子はない。


「村人がニルトと……」


 トゥフが遠慮がちに告げた。広場の片隅から観客はすでに去り、残っているのは自分達だけだ。呻くニルトにサナが話しかける。


「ニルトよ。治療して欲しいか?ある程度の回復なら銀貨60枚、動ける様にするだけなら銀貨10枚で良いぞ」


「……。かねなんてねぇ……」


「だろうの。だが、このままではそなたは死ぬ」


「……。手付けもねぇ……貸してくれ」


「良かろう。そなた名義の借用書を用意しょうぞ」


 ニルトの借金の申し出に、サナはトゥフに命じ契約書を書かせた。口述筆記と言うらしい。トゥフはサナが述べる通りの文を綴ってゆく。今なお読み書きが不得手な自分には出来ない事だ。


「貸付金額は銀貨10枚。大地母神歴で年利6%複利で月割で良いな?取り急ぎ動ければ良かろう?」


「……動ければいい。が、借りるのは銀30だ。種銭さえありゃ王都の賭場で、ひと稼ぎ出来る……」


 それを聞き、自分は思わずサナを見た。兄者が生前話していた身を持ち崩す典型的な冒険者の考え方だからだ。サナは楽しげに笑い。トゥフは僅かに眉を顰めた。


「なら利率は18%ぞ。返せぬなら債権を傭兵ギルドあたりに流せば損はせぬ」


「……クッ!足元見やがって……」


 その後、ニルトとサナの契約は成立した。神聖魔法で百叩きによる酷かった傷がマシになる。すると厚かましくもニルトは空腹を訴えた。


 と、トゥフが自分に契約書を差し出し銀貨10枚をニルトに渡す様に告げた。


「債権者の名義はデグ様です」


 そういえばサナは現金を持っていないし、自分の従神官を名乗っている。どうやらニルトは自分の兵として雇われた形になるらしい。ニルトが銀20枚よこせとサナに悪態をついているが、片手剣や木と皮の小盾、厚手の服等の装備代として差し引くと言っている。


「金は借りたが、俺は兵なんぞに……」


「部隊員なら行軍中の飯は出るぞ。どうしても、一人自腹で王都まで来るなら止めぬがな」


「クソが!」


 金が無ければ意地さえ張れない。無理をしても、苦しむのは自分だ。トゥフが無言で差し出した硬い保存食を噛じりながらニルトは肩を落としていた。


☆☆☆


 翌日


「デグ殿、デグ殿はあの様な盗人を兵となさるのか?」


 一人の下級騎士が自分の乗る昇龍号に馬を寄せて訊ねてきた。確か名前はエレヒト殿、昨晩途中からニルトへの百叩きを実行した人物だ。


「冒険者、傭兵、盗賊。大半は喰い詰めた屑がなるものよの」


 自分が答えかねていると、サナが代わりに答えた。トゥフは死者を送る祈祷文を大声で暗唱させられながら歩いている。周りの兵達は「縁起でもねえ」と遠巻きにしているので、野郎避けの意味もあるのだろう。


「それに行軍中の将の荷を狙う、バカさ加減。兵に向いておる」


 そうしてサナは笑った。ニルトは怪我も完治してないところに荷と武装を渡され、あぶら汗を流しながら、無言で必死に歩いている。街道沿いとはいえ、部隊に遅れる様な奴はゴブリンの餌になる可能性が否定出来ないからだ。


「なるほど。神官殿が申すなら是非も無いが、手綱はお願いしますぞ」


 そう念を押してエレヒト殿は離れた。見ればエレヒト殿の兵は皆若く数も多い。装備も整い、規律正しく歩いている。他のくたびれた傭兵や冒険者崩れが混じった下級騎士達の兵とは毛色が違う。


「エレヒト殿は下級騎士だが、家名を持つ血筋。隊長の騎士殿より家格は上やも知れぬ」


「ならば……?」


「貴奴は失脚した至高神聖王国派よの」


 自分の呟きにサナは小さく笑い答える。言われて見ればエレヒト殿の生真面目さから透けて見えていた。リキタ伯は強い大地母神派の方だ。しかし、自分が漫然と行軍している間に、サナは色々と情報を集めていると感心する。


「デグよ。聖女殿らの策でリキタの街の聖王国派高司祭らを粛清、追放したと聞いた。『可愛い顔して、割とやるものだ』とな」


 そうだったのだろうか?自分は良く分からないが、アヤメ殿ならあり得るとも思う。


「小休止!小休止!」


 隊長の兵が叫んで告げる。学のない自分には分からない事だらけだ……。


村での犯罪の司法権は基本は直轄した領主にあります。

この村は王の直轄地なのですが、代官が置かれてない為村長に権限があります。もしこの村に代官がいれば代官の権限になります。もし不服があれば王都の司法当局に訴える事も出来ますし、王に裁定を願う事も形式上は可能です。

この村が伯爵領内だったなら、部隊の隊長たる騎士に権限があったのでニルトは吊るされていたでしょう。


私の黒歴史がまた1ページ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。