行軍
視点デグです。
「出立!」
食糧等の輸送をリキタ伯爵から請け負ったフォレスト商会の馬車列をを中心に自分達リキタ伯軍の約100名は出発した。内実は商隊護衛と変わらないが、全体的に普段より足が速い。
派遣部隊の隊長は見知らぬ騎士。伯爵領内の、ある村の領主との事だ。そして100名の大半は臨時雇いの兵だが、雇い主は伯爵ではなく下級騎士達。従卒を養う程の収入は無くとも、招集にあたり下級騎士は自身を含め馬一頭と10名の、頭数を揃える必要がある。
これは借金してでも果たすべき下級騎士の義務だが、ある意味投資でもある。自身か配下が手柄を立てて下級騎士で終わらず、この部隊の隊長の様に騎士になれば、尊敬された上に村からの税で懐を潤す事も可能だ。上手く領地を経営し、決まった税を伯爵に納めたなら、残りは領主の元に残るのだから。
自分は下級騎士ではあるが、規定数の兵は連れていない。兵の代わりに貴重な神官を連れているからだ。(神官見習いのトゥフは下女と数えられている)馬の代わりは騎乗大蜥蜴でも構わないとの事だった。
「トゥフよ。そなた。話し方を直さねばならぬ。」
「はい。あたいは……」
「あたいなどと申すな。私はと申せ!」
「はい。私は……」
歩いている様に見せて浮遊しており、さらに不死者として疲れ知らずのサナに対して、荷を持ち早足で歩きながら話すトゥフは辛そうだ。だがサナは容赦なく声をかける。
「歩く時は大地母神の神話を語って進ぜよう。我に続き復唱せよ。やがて理解が至れば啓示が下される。混沌が世を覆いし……」
「はい……。混沌が世を覆いし所に、大地母神と……」
最初、周りの男兵達は美しい顔立ちのサナに何とか話しかけようと近くを歩いていた。だが今は少し遠巻きにして歩いている。痩せた下女、いや神官見習いにキツく当たる厳しい性格に見えているからだ。
「『黙って歩くな!声を出せ!』ってか。傭兵隊で見習いだった時を思い出すぜ」
「俺も聖王国で似た感じでシゴかれた。『行軍中は聖典を諳んじろ』ってな」
「うへぇ。やだやだ」
小声で雇い兵が呟くのが聞こえるが、サナは気にしていない。半刻毎の休憩と昼の半刻の大休憩を除いた移動中、サナとトゥフは、ずっとそんな感じだった。そして夜営となれば、トゥフは下女としてサナの世話をする。
首から下はスケルトンウォリアーを芯として動かし偽装しても、動きはぎこちない。それを病の為と称しているので、トゥフはサナに従い世話をする様に動かねばならないし、実際世話を焼いている。
夜営中、粗末な毛布に包まり泥の様に眠るトゥフを見ながら、秘かに憐憫や好意を寄せる兵達は思ったより多い。無論、獣欲含みの者もいるが。
「もう少し肉が付けば、コヤツは化けるやも知れぬぞ」
そんな気分を分かっているのか、サナはそう呟いた。
☆☆☆
「王都に到着次第、リキタ伯の本隊、約400名と合流する」
自分を含め、7人の下級騎士を前に隊長が告げた。自分が生まれたソロス村は5日前に通過したがこれと言った感慨はない。行軍と夜営を繰り返し、今日はゾベスの村。自分達は久しぶりに屋根のある建物で寝られるし、保存食でない食事がとれる。
王都から来た伝令の話ではクーリナ聖王国軍2万は既に山脈の向こう側に到着し、寒さが緩むのを待っているらしい。クーリナ軍がドワーフ達の住む山脈を越える前に、こちらも王都を立つ必要がある。
「数こそ多いが、敵方は寄せ集め。こちらは女王陛下の元に集いし、貴族軍と百戦錬磨の傭兵達。勝負は見えているぞ!乾杯!」
「「「乾杯!」」」
部隊が借り受けた酒場兼宿屋に掛け声が響いた。下級騎士が主だった従者達と、それぞれテーブルで食事を始める。一般の雇い兵も村の広場で温かい食事にありついている頃だろう。
自分のテーブルにはサナとトゥフが着いているが食事は二人分。サナは自分用の食事をトゥフに譲り、ぎこちない腕で白湯を口に運び唇を湿らすのみ。
「トゥフよ。ゆっくり食べよ。我は部屋にて休んでおる」
不死者が食事が出来ないのを誤魔化すのは手間がかかる。今日は普通に中庸の月が出ているので、魔力も神力も問題ないはずだ。今夜休むだけの部屋だが、少ない手荷物は既に運び込まれている。サナはゆっくり階段を上り部屋に戻った。
☆☆☆
少なくない量を無言で食べる自分と、量は普通だが無言で食べているトゥフが食事を終える頃。二階から短い悲鳴が聞こえた。声は男の物であり、サナではない。自分も含め、食事をしていた内の数人が席を立つ。
と、二階から声がかかった。
「トゥフよ。手を貸せ。盗人が出た」
サナの声だ。だが焦りなどは感じられない。まるで部屋に虫が入ったぐらいの声だ。するとトゥフが席を立つ前に抜剣した従者数名が階段を駆け上がる。そして自分は何故かトゥフに止められた。
「デグ様。決着はついてます」
すると、二人の従者に抱えられた、みすぼらしい姿の男とサナがゆっくり階段を降りてきた。男からはところどころ肉が焦げた悪臭がする。
「[短雷撃]が直撃して、心の臓が止まらぬとは幸運な男よ」
サナは笑っていた。言葉に反して元々捕らえるつもりで放った魔術だろう。不運なら心臓が止まる術とルチェ殿に聞いた事がある。
「グゾ。っぃでね゙ぇ」
回らぬ舌で男は悪態をつく。下級騎士ら全員が食事をしている間に盗みを働くとは悪知恵がまわる。ただサナが部屋に帰っていたのは想定外だったのだろう。それに不死者のサナは生き物の気配はしないから気付くのが遅れたはずだ。
隊長が確認すると、この男は部隊員でも下男でもない村の男らしい。宿屋の主人が村長宅に人を遣り慌てている。街で衛兵をしてた者もいるのか、従者により手際よく男は縄で縛り上げられてゆく。
「食後の余興が出来たのう」
サナは笑いながらそう告げた。
ルチェの魔術解説
「[短雷撃]はダメージとスタン効果がありまス。クリティカルすると心臓が止まりまス。ただ雷撃は効果のない相手もいるので注意が必要でス」
「例えばアンデッドやゴーレムには効きませン。水場だと術者にもバックダメージありまス」
スタン?クリティカル?魔術用語だろうか。自分にはよく分からない。(デグの感想)
私の黒歴史がまた1ページ。




