系譜
ケリー視点です。
私の師は変わり者でした。至高神聖神派の強い北方騎士団領に生まれたのに、熱心に大地母神を信仰して啓示を受けたそうです。そして啓示を受けてからは[歩き巫女]資格を取り世界を放浪し、ハルピアに流れついたと聞きました。
そして幾人もの弟子を取り教団内で頭角を現したのですが、突如としてリキタの大地母神殿に移籍。ムゲットと私は師の晩年の弟子。私は最後の弟子にあたります。
「転生させてくれた至高神には悪かったけど、[白夜の女王]討伐の駒にはなりたくなかったのよね〜」
師が40歳で病没する直前。死の床に呼ばれた私は師が転生者だと、打ち明けられました。至高神からの使命を捨て大地母神に庇護を求め、大地母神に帰依出来てからは世界中を旅したそうです。
「凄い変革は起こせなかったけど、少しだけ世界を良くしたと思うわ。ケリー。後は頼んだわよ」
不死者を討ち、明らかな正義を示す。確かに私の知る師の性格には向いてません。でも、その良く言えばおおらか、悪く言えば緩い性格はゆったりとした正義には向いていたと思っています。
ちなみにその頃、ムゲットはエルフ薬学と転生者の医学を学ぶ為に聖王都に行きリキタには居ませんでした。師が記した覚え書きには、こう記されています。
「ムゲットは性格が私に一番似ている。特に向こう見ずなところとか」
私は師から受け継いだ知識と資料を元に研究神官としての地位を固め、平民ながら上級神官の地位を得たのです。
☆☆☆
「ロカ殿。見ての通り、我に茶は要らぬ」
目の前で私の弟子ロカに、ムゲットの弟子サナが苦笑しながら告げています。私もいつの間にか師の享年を超えました。サナことサナスターシャはムゲットが聖王都から逃げ帰る要因になった弟子達の一人。20年以上前に死んでいるはずのムゲットの一番弟子。
ムゲットが刺客に追われ、唯一生き延びた弟子と共に陸路で帰国した時も色々ありました。さらにハルピアで行方不明になった後、突如[竜の島]から結婚報告が来ましたし、アヤメを「娘をよろしく」との簡単な文で寄越した時も驚きました。
しかし、まさか不死者とテーブルを挟んで話をして、その能力を聞き取ったり、ムゲット研究に関して情報交換する時がくるとは思いませんでした。ムゲットの存命を知る者は少なく、既に研究対象として認識されています。
「二男二女に恵まれ、隠遁生活。師はその様な事とは縁遠い方だと思うていたが……」
「そうですか?ムゲットは控えめに見ても美人でしたから、結婚しても不思議ではないかと」
研究について意見交換の一つとして、ムゲットの現在についてサナと話します。ちなみにサナから語られる聖王国での逸話は後日書籍にまとめたい内容が含まれていました。ですが貴族の実名を出せないので、公にするのはロカに任せる事になるでしょう。
当時者のいない過去の話なら、記録として残す度量が聖王国にはあります。初代勇者が残した法的な考え方が、建国にエルフが関わった聖王国の文化と合っていたのでしょう。記録により後世に判断を委ねる概念が聖王国にはあります。
☆☆☆
?。
話に夢中になっていると、いつの間にか隣でロカが嗚咽を漏らしています。手にはデグ殿から渡された手紙。
「クーア様が生きてらした」
ロカが小さく呟きました。そういえば、ロカもアヤメと同じく手紙一枚で来た弟子。面識は殆どない魔術師からの手紙でしたが、ロカは[真実]の天啓を持つムゲットの孫弟子として紹介されていました。
そしてロカが抱えていたムゲットの日誌には貴重な記録と[英雄]のレシピもあり、魔術師の思惑通り、私はロカを弟子にしました。
「デグよ。ロカ殿宛の手紙の出し主は誰ぞ?」
「クーアハーゼ大使だ」
どうやらロカの恩人は絶望的な状況を生き延び、今では表向きは聖王国の大使をしているらしいです。デグ殿の話からすると聖王国の[緊急事態省]の所属との事ですが、[緊急事態省]が聖王国の情報機関なのを知る人は少ないはず。
「ゼルトナとは聞かぬ家名。いやあの将軍が賜った男爵家か?」
ロカと同じ様にサナ殿も呟き、考え込んでしまいました。私の師もムゲットも私自身も、考え込むと周囲を気にしなくなります。ロカやアヤメ、冷夏も似た感じになることがあり、これは我が師から伝わる一門の伝統かも知れません。
「ルドム。茶のおかわりの準備を」
「あたいも手伝います」
ルドムにそう伝えると、サナ殿の弟子トゥフ殿も席を立ちました。この日の浅い二人も、いずれ考え込む様になるかも知れません。
「う~ん、私の癖も伝統だったみたいだぞ」
(いや、冷夏のは違うだろう。交信時のタイムラグだ)
「そんな事ないぞ。私もケリー先生の弟子なんだから」
(師が転生者で弟子も転生者。ケリー殿の苦労がしのばれる)
私の黒歴史がまた1ページ。




