門
デグ視点です。
トゥフは白い肌をしています。
「すまぬが手を貸してくれぬか?」
少し慌てた様子で戻ってきたサナの話を聞いて、気を失っていた娼婦らを回収して天幕に戻った。年若い娼婦にサナの指示により、消毒液を少量飲ませ目を覚まさせる。竜の島から広まった呼び方で言う夜鷹はトゥフと名乗った。いや正確には小声でトゥフと呟いた。
「目を覚まして叫びだしたら面倒であろう?」
そう呟いたサナが大声を出せぬ様に魔術で呪いをかけたのだ。呪いはかけた者の魔力が、かけられた者の魔力を上回っている限り、自然に解ける事はないらしい。ただかけられた者の魔力が上回ると、強さが増して跳ね返ってくるそうだが。
「この娘は、なかなかの拾い物であるな。妓館の雛だったらしく文字の読み書きは出来るし、手先も器用ぞ」
トゥフを尋問しているサナが嬉しそうに語る。逆にトゥフは青白い顔をして、涙目だ。手慣れた熟練冒険者でも不死者である浮遊する生首に尋問されたならば困惑するだろう。
それが若い夜鷹が訳もわからず捕らえられ、脅されながら尋問されたのでは、酷く恐ろしいに違いない。だが気を失いかけるとサナは消毒液を飲ませる様に自分に言う。消毒液をレイカ様はエチルアルコールとか呼んでいたが、ドワーフの火酒と大差ないらしい。
「さて、ジグよ。我の正体を知ったトゥフをどうする?」
サナが脅す様な口調で、わざとらしく自分に話を振ってきた。どうやら自分に説得をさせたいらしい。口封じをするつもりなら、魔術で簡単に始末出来るのだから。
「お前は妓館の雛だったのか?何故、夜鷹になった。脱走か?」
「あ、あたいは捨てられたんだ。世話になってた姉が呪いで獣人化しちまって」
ここでトゥフが話している姉は、もちろん血縁者ではない。妓館では何故か先輩妓女を姉と呼ぶ。一人前の妓女には最低1人、場合によっては複数の雛と呼ばれる見習いがつく。店にもよるが姉が妹達に教養や技術を伝えると聞く。
「なるほどの。店は評判を気にして、隠したか」
隣でサナが頷く。首だけなので下を見ただけの可能性もあるが。聞けば彼女の姉はハルピアで、そこそこ有名な店の妓女だった様だ。だが客から病であるライカンスロープ症を感染させられ、獣人化して冒険者に秘密裏に処分された。
ライカンスロープ症は全く発症せずに済む者も稀におり、ただそういった者も病は運ぶ。そう、自分はアヤメ殿やレイカ様から獣人化は病と聞いて知っているが、一般には獣人化は病ではなく呪いとされている。面倒を見ている姉が呪われたなら、その妹も呪われていると考えるのは不思議ではない。
「で、でも、あたいは呪われてない」
「さもありなん。ライカンスロープ症は血液など体液で感染する病。通常生活では伝染らぬわ」
ライカンスロープ症は感染者と性的関係を持ったり、噛みつかれる引っ掻かれるなど傷を負わされた場合でないと感染しないそうだ。また感染した場合でも月が満ちる前なら治療出来る病。例え近くに居ても、発熱等無ければ問題ないと分かるはずだが……。
「病?」
「あぁ。自分もそう聞いた」
改めてサナはライカンスロープ症の説明を始めた。さらに呪いは1人1つ、より強い方しかかからないとの事。小声の呪いに囚われたトゥフは他の呪いには無縁だと言う。
「ふむ、トゥフよ。時にそなた我の助手にならぬか?修行次第で[大地母神]の啓示があるやも知れん」
「!。あたいが?それに[永遠の神]ではなく?」
「うむ。そなたには神力が6ある。そして[永遠の神]については生ある内に啓示を受けた話は寡聞にして聞かぬ」
その後しばらく、サナとトゥフのやり取りが続き、最終的にトゥフは助手ではなく弟子になった。明日到着予定のリキタの大地母神殿で神官見習いになるらしい。呪いを解いたサナは神殿での基本的なやり取りをトゥフに伝えている。
「……とはいえ、我は神殿には入れぬだろう。頼むぞ。デグよ」
「あぁ」
自分は、少し面倒に思いながらも、そう答えた。
☆☆☆
翌日。
リキタ伯爵の領都に入る為に並んでいると門番から声をかけられた。商隊に直接雇用されている者は商隊と共に形式的チェックだけで街に入ってゆく。だが同行者はそうはいかない。入念なチェックと1人頭銀貨1枚の税がかかる。
さて、サナの事をどう誤魔化そう。流石に触りはしないが、何かの拍子に中身がないのが発覚したら困る。そう思っていたのだが、門番が2人走ってきて、そのうちの1人が告げたのだ。
「騎士のデグ様と、お見受けする。従神官の方々共にこちらへ」
そして[昇龍号]の轡をもう1人が取った。並んで待つ者達の横を通り越してゆく。
「気付くのが遅れ申し訳ございません。我らが領の騎士様を、お待たせしたとあっては我々が叱責されまする」
そうだった。失念していた。自分はリキタ伯爵に仕える下級騎士なのだから、なんなら商隊より前に街に入る権利があった。隣ではサナが笑っている。どうやらサナは気が付いていた様だ。
チェックを気にしていなかったのには理由があったのだ。門を通過する時、門番達が皆、直立不動になり敬礼してくれる。自分は騎乗したまま、学んだ礼を返した。もちろんチェックも銀貨も無しだ。
「デグよ。そなたは下級とはいえ貴族なのだ。街中では堂々としておれ」
サナは、まだ笑みを浮かべたまま、そう呟いた。
「トゥフよ。そなた生まれは北か?随分と白い肌をしておる」
「あたいには10までの記憶がない。気がついたらハルピアの妓館で雛をしていた」
「なるほどの」
(記憶がない?魔術的な痕跡はないし……忍の使う阿呆薬やも知れんな)
10までの謎。「転生忍の冬」投稿、完結済みです。
私の黒歴史がまた1ページ。




