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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第19章 卵の欠片

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新たなる聖女

デグ視点です。

 自分は久しぶりに兄者の墓に来ていた。来る機会が減っていたのはアヤメ殿やレイカ様のお陰だ。戻らぬ時を悔いて毎日の様に訪れていた時もある。


 レイカ様はチャガラやルチェ殿、[竜の卵]と共に竜の島へと旅立った。大地母神の簡易神殿を拓くアヤメ殿から、手伝いに来てほしいと依頼されていたらしい。


「[聖女]に祭り上げられたのは失敗だったよ。冒険者のままなら聖王国に行けたのに……」


 出発前にレイカ様はそう呟かれていた。聖王国からの招聘依頼には弟子のレイカルさんが応える事になったのだ。全権大使のクーアハーゼ殿の差配に反対していた女聖騎士と護衛兵士達は任を解かれた。


 それだけではない。女聖騎士のアミラ殿は任を解かれた兵10名と共にジナリー王国側として参戦する事になった。聖王国派と聖神派は同じ至高神を奉じるも仲が悪く、クーリナ聖王国は聖神派に属する国だ。


 とはいえ本国から遠い戦争に僅かな手勢派遣されるのは、あまり意味のある事ではなく。簡単にいえば左遷であろう。以前の自分では理解出来なかった事柄だが、ルチェ殿が親切に教えてくれた。


 自分も明後日には出立する商隊と共にハルピアを去り、ジナリー王国に出発する。従える兵など無論無く、仲間も居らず[昇龍号]だけを伴う。妻のアリスはレイカ様の好意により、治安の悪い裏町から大地母神殿に居を移している。


 妊娠が安定期に入り、もう少し暖かくなったら護衛に冒険者を付けてロバート卿の元に移る。そのへんはデポ姐さんが請け負ってくれた。自分も戦争が終わり次第、仕官先をリキタ伯爵からロバート卿に変える予定だ。冒険者としては成功した部類なのだろう。


 だが、自分の迷いは晴れない。


☆☆☆


「兄者。自分はこれで良かったのか?アリスやレイカ様に止められても、ミケに復讐すべきじゃないのか?」


 自分は兄者の墓に問いかける。返事などこないと知りながら。


 が。


 その問いに後から声がかかった。


「知りたいか?戦士よ」


 自分は戦斧を手に振り向く。直前まで気配は無かったはずだ。以前も二度、この場では不死者アンデッドのヴァンパイアに襲われている。


「そう驚かずともよい。少なくとも()()おぬしに害意はない」


 後にはボロボロのフード付きマントを被った女がいた。いや、少なくとも声は女だ。風に、はためく姿には違和感がある。少なくともヴァンパイアでは無さそうだが……。


「何者だ?」


「以前は[歩き巫女]のサナと呼ばれていた者」


 確かに良く見ればその姿は大地母神の[歩き巫女]が旅着のフード付きマントを着た立ち姿に見える。だが気配は違う。


「だが今は我の正体より、その墓場の主が意思を知りたいのではないか?戦士よ」


「自分は下級騎士のデグ。お前には兄者の意思が分かるのか?」


「分かるやも知れん。分からぬやも知れん。だが尋ねる事は叶うぞ」


 怪しげな話だ。それこそ兄者が生前言っていた。愚かさにつけ込む輩の類に違いない。だが……今は何故か話を聞いても良い気がしていた。


「何が目的だ?カネか?」


 するとサナとやらは、心底可笑しそうに笑い始めた。自分は何か変な話をしただろうか?ひとしきり笑うとサナは言った。


「我にカネなど不要。しばし、旅の共をして欲しい。なに、行先はそなたに任せる。我は()()()旅がしたいのだ」


 聞けば遠く聖王国から師を追ってハルピアまで来たが、師の痕跡はハルピアで消えたらしい。その後はハルピアの片隅で暮らしていたが、つい先日、治安傭兵による大掃除により追い出されたそうだ。


「同類には捲土重来を期し、地下深く潜る者もいたが、我には合わん。なれば旅を……とな」


 そう聞くとこの怪しげな女、サナから、スラムや下水道などに特有の少し甘い腐敗臭がするのも、分からなくもない。金は必要ないなどとうそぶいているが、湯や新しい神官着などは必要だろう。


「分かった。試してくれ。全くの詐欺で無ければ、報酬は払う」


「疑い深いのは良い事だ。デグよ」


 そう言うとサナは目を瞑り、魔術を行使した。詠唱なく使う中魔法。魔族ではない者で使う者は少ないはず。自分の周りではレイカ様とミケが使用していたが……。


[残留思念](使1+1残58)


「………………。」


「しまった。仲間を巻き込むなんて……。生き延びる執念で私は……」


 聞いた事のない女の声がした。が、それも一瞬の事。兄者の気配も声もしなかった。


「墓に二人入っていたが、人間の男の方は消え、ハーフエルフの女の思念が僅か残るだけであった。少なくとも恨みを残して死んだ訳ではなかろう」


「……。満足だ。サナ。報酬を支払おう。だが旅の前に身なりを整える必要がある。違うか?」


 すると、またサナは笑った。自分がその意味を知るのは、直ぐ後になるが、この時はまだ自分は自らの愚かさに気付かずにいた。



お読み頂いている方々には、タイトルからサナの正体はバレバレですね。


私の黒歴史がまた1ページ。

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